10月5日開催の「FIGHT CLUB2」でYA-MAN選手と対戦予定だった格闘家の木村“フィリップ”ミノル容疑者が3日に大麻取締法違反の疑いで逮捕された。自分も同じ大会に出場を予定していた中での衝撃のニュースだった。

人間はみんな弱い。木村ミノルは自分の弱さを理由にドーピングや薬物に手を出したようだが、人間なんてみんな弱いんだ。弱いところから始まってるし、強くなることはないんだよ。人は性善説でもなければ性悪説でもない。全員、性弱説なんだ。

俺は弱い。ものすごく自分に甘いことをわかっている。妥協もするし惰性で動く時もある。でも、そんな自分を見て見ぬふりはしない。必死に向き合い、必死に戦う。それでも勝てなくて弱い自分が顔を出してどうにもならない時もある。それでも人生は止まらない。その瞬間、瞬間でそんな弱い自分と向き合って戦うんだ。

木村ミノルは弱いのではなく、勇気がないだけだ。それは彼だけの話ではなく、言い訳をしたり他人のせいにしたり、人をばかにしたり、なめてるやつはみんなどこかで誰かの文句を言って自分と向き合うことから逃げている。それは弱いんじゃなくて、勇気がないんだ。

勇気とは本気で何かに没頭したり夢中になったりすることで芽生える。苦しみの中を暗中模索で切り抜けようとする中で気づく心がある。その心に気づかず、ただ表面的なことだけをみて思考していれば、物事を簡単に考え安易な思考になる。そしていつか、自分のボーダーラインがなくなり、簡単に言ってはならない方へと流れていく。

人間は生まれながらにして弱い。今の日本にまさにその流れが来ているんだ。弱さを認めるが受け入れるな。抗って闘って勝ち続けない限り人は成長しない。

俺にとっての格闘技はそんな自分との戦いだ。弱くて情けない自分との戦い。そんな自分に打ち勝つことは至難の業。それでも日々の鍛錬の中なら見つけ出すんだよ。自分の中の光を。格闘技は精神と触れ合える場所。だからこそ弱さが露呈する。何度も何度もくじけそうになり、自分を否定したくなる。

どれだけ必死に取り組んでも、怖さや不安はずっと付きまとう。どれだけ追い込んでも、どれだけ厳しくしても、「成長してないんじゃないか」「強くなれてるのだろうか」と自問自答が続く。自分を認められないことほど悲しくて辛いことはない。そんな時、それを弱さだと思い人は自分以外の何かに頼る。友だちに愚痴を言う。SNSでつぶやいたり攻撃したり、お酒にのまれたり、お酒で全てをごまかしたり…。しかし現状は何も変わらない。忘れようとしても忘れられない。だって人間はそもそも弱いから。

大事なのは肉体をいじめ抜いて鍛えることではなく、自分の心と触れ合う時間を作り、どんな自分も認めてあげることだ。その上で、よしやろう、必ずこの弱さと戦い打ち勝ち、自分のことをちゃんと認めてやろう、そう思い込むことだ。

俺はJリーガーの夢を追っていた20代のころ、このことに気付けす弱い自分に打ち勝つことはできなかった。だからプロにはなれなかったし、全てが中途半端だった。それから15年の時が経ち、もう1度Jリーガーを目指した40代。そのときに俺は自分に誓ったんだ。自分から逃げ出すことはしない。自分から諦めることもしない。本気でかなえたい目標や夢があるなら本気かどうかを自らにアクションで証明しなければ、俺は一生情けない男のままで終わる。

お金があっても、地位や名誉があっても、そこに自分はいない。取り繕った誰だかわからないビジネスマンは、俺ではない。ある種これもドーピングや薬物的効果があったのかもしれない。お金や地位や名誉に頼り現実を見ようとしなかった。俺は逃げたんだ。ドーピングや薬物を使う木村ミノルの気持ちは全て理解できないけど、少しだけ寄り添うなら、こう言えるだろう。

自分を認められなくなるくらい自分が惨めで小さい人間だと思ったんだろう。周囲の期待に応えなければいけない自分に限界があったんだろう。そして気がついた時にはもう抜け出せないループに入ってしまったんだよな。これは彼だけじゃなく多くの人がそんなループに入ることがあるのではないだろうか。

そんな時できることはちゃんと自分と向き合うことだ。第三者やお酒やSNSではなく、自分の心の声を聞くんだ。それにもってこいなスポーツを知っているか?

それが格闘技だよ。それがキックボクシングだよ。非言語の世界で自分の無力さと向き合い、弱さと向き合い、それを超えていく勇気と出会うんだ。

明日は「FIGHT CLUB2」。変な形で世間の認知を得たのかもしれないが、それでもいい。弱い自分と戦って、前を向いて、顔を上げたい人はぜひ見てくれ。

今回の俺の相手は史上最強で最高にカッコいい戦士だ。山口兄弟の兄、山口裕人。見た目は100%反社だが、心は気高く精神は骨太。リスペクトと愛を持って思いっきりぶつかる。みている人が立ち上がるくらいのファイトをする。

いいか、よく聞け!自分に弱いやつ、自分が嫌いなやつほど「FIGHT CLUB2」を見ろ!見届けろ、おっさんが死に物狂いで勝利を手にする瞬間を!





◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算3勝1分け2敗。175センチ

安彦考真
安彦考真