三次から出た芸備線の旅は備後落合に少しずつ近づいていく。思わず見とれてしまう桜の巨木や戦前からの駅舎など見どころは多い。そして山中の要衝である備後落合。過去何度も訪れた駅だが、今回は初めてとなるちょっと変わった体験を試みた。(訪問は4月8、9日)
◆(バス)上原学校前12時22分→下和知駅前12時37分
30分に1本というバスで順調に1駅ずつ進んできたが、ここで少し戻る。目指すは下和知駅。ここまで来た路線にも「和知駅口」という停留所があり、同駅の最寄りといえば最寄りだが、これが結構な距離である。地図を見ても徒歩15分はかかりそうだ。他に手段がなければ歩かざるを得ないが、平日に2本だけ三次中央病院や三次ワイナリーを経由する便があり、これが下和知駅の真ん前で降ろしてくれる。
その駅はブロック造りの待合所だけ。島式ホームに貨物ヤードまであったとみられるが、今は1面だけが使用されている。かつては規模も大きく立派な駅舎があったことが想像できる。(写真1~3)
さて駅舎といえば三次の後は山ノ内→七塚→備後三日市→下和知と立ち寄ってきたが、いまだ駅舎というものを見ていない。また5駅も巡ったにもかかわらず列車にも乗っていない。まぁ、こんな鉄道旅行記もある。まだまだ先は長い。
◆下和知13時19分→高13時49分
ようやく列車に乗った。しかも30分も(笑い)。乗車したのは1日1本、備後落合で芸備線の東西と木次線が出会う件の列車である。平日というのに、かなりお客さんがいる。もちろん多数の同業者(鉄道ファン)を含む。高は備後庄原の1駅東なので、すでに1日4往復区間に入っている。
桜の季節とうまく合ったことで、その意味ではメインイベントにもなった。「たか」と読む。駅の周辺は街が形成されている。駅舎を出て目を引くのが咲き誇る桜の巨木。本当に幸運なことに旅程と満開の時期が重なったようだ。昭和初期の開業時からの木造駅舎を背景にした桜が美しすぎる。車のナンバーから地元の方だと推察されるが、次々とやって来ては写真撮影している姿が見られた。ご多分にもれず、かつての2面ホームのうち1線が使用されなくなっている。それでも多くの花に癒やされる駅となった。(写真4~8)
◆(バス)高駅前14時3分→平子駅前14時10分
本来なら花をもう少し満喫したいところだが、例によってこんな時に限ってすこぶる接続がいい。先ほどまでとは別系統のバスに乗り込む。備後庄原駅と備後西城駅方面とを結ぶ路線。さすがに30分に1本というわけにはいかないが、平日は1日に9本あり、昼間は1時間に1本の運行となる。
平子駅は簡易駅舎になっているとはいえ、最近見かける無機質なものではなく、蔵風の造りが駅としての「愛想」を保っている。単式ホームの向かいは国道そして川が流れる。駅舎側は住宅街。花に埋もれかけた駅名標そして、ちょっと見にくくなったキロポスト。バスは1時間に1本なので必然的にここで1時間過ごすことになるが、好天の春の日。ぼんやりと過ごすにはちょうど良かった。自販機があれば、もうちょっとうれしかったけど(笑い)。(写真9~12)
◆(バス)平子駅前15時10分→ウイル西城前15時20分
備後西城は旧西城町の中心駅。こういう時、バスに乗るとよく分かるのだが、市街地に入ると古い街並みがそのまま残っていて、目に優しい。ただし私の乗車したバスは駅前には行かない。新しい建物が目立つエリアに入っていく。再開発された地域のようだ。降りたのはウイル西城という商業施設とコミュニティー施設が入る複合施設。バスターミナルの機能も要しているようで、駅までは徒歩5分ほど。
鉄路が備後落合へ向かって伸びていった昭和の初期、1年半ほど終着駅の時代があった。駅舎も間違いなく当時のものだろう。以前の急行停車駅で、大きめの貨物施設があったことも分かる。今もすれ違い設備は現役だ。時間的に駅には高校生が集まり始めていた。
西城町観光協会が簡易委託を行っていて、旧駅事務所は店舗などになっている。曜日が決まっているようだが、今度来た時はぜひそばを食べたい。なお同協会が運営しているYouTube「ヒバゴンch」は同駅舎を中心に収録が行われているようで、今でも楽しく見ている。(写真13~17)
◆備後西城15時56分→備後落合16時15分
再び列車に乗り込む。これは備後落合で東城方面への乗り換えがない列車。木次線の「最終」には接続しているが1時間半待ち。徒歩15分のドライブインに行くにはちょうど良い時間ではあるが地元利用が、通常どのくらいあるか私には分からない。ちなみにこの日は、ホームに数多くいた高校生は、どうやら備後庄原方面へ向かう生徒ばかりのようで、2時間前のにぎわっていた接続良好の列車とは対照的に乗客は私を含めて3人。しかも確実に3人とも同業者だったことは事実として触れておかなければならないだろう。
3月に来られなかった備後落合に到着。何度来ても、この駅はいい。実はこの時間帯に来るのは初めて。ポツンと単行列車がいるだけの広い構内、展示場のようになっている駅舎、人も少ないため、ますますじっくり味わいたいところだが、この日ばかりはすぐに立ち去らなければならない。なぜかというと「バスに乗りに来た」からだ。備後落合からバスに乗るというのが、この日のミッションのひとつ。(写真18~20)
あまり時間はないため、バス停を探すべく駅前のスロープを下りて道路に出ると、すぐ見つかった。駅への案内看板の柱に寄り添うというか、もたれかかるように設置されている。手書きの時刻表で、さらにそこに小さな文字が挿入されている手づくり感満載の時刻表。5月5日の記事で紹介した1日1本の路線が挿入した部分だが、道後山駅近くの植木という停留所を始発とする路線もあったりで、これだけの本数がある。いずれも備後西城方面へと向かう。備後落合で目立つもののひとつだった郵便局がなくなっていることに、ややショックを受けているとワゴンタイプのバスがやって来た。これにてミッション完了。乗り込もう。【高木茂久】(写真21~24)