<JRA調教師 久保田貴士(49)>
僕は明大の馬術部に所属していました。1日何時間も馬に乗り続ける毎日。監督の指導も厳しかったですが、2年から4年の時に全日本学生馬術選手権3連覇などの成績を残すことができました。当時はやっぱり五輪を目指したいという思いがありましたね。
大学4年の時に、ソウル五輪の障害飛越部門の一発勝負の選考会が行われることになったんです。ただ、大学にいる馬のレベルでは正直、厳しい。五輪出場を狙うならいい馬を買う必要があった。その時は若かったんでしょうね。いきなり父に電話して「五輪予選のために馬を買いたいんだけど、数千万円用意できるっ?」って。当然、すぐに断られました(笑い)。それまで本当に僕の自由にさせてくれていた父と、その後、生まれて初めて真剣に進路の話をしました。そして僕は馬術の道でなく、父と同じ中央競馬の調教師の道を目指すことに決めたんです。
川崎市生田にあった明大馬術部の合宿所が今年3月に壊されました。僕や当時の長田監督が中心になってOBに声をかけ、2月半ばにそこに集まりました。苦しかった印象しかない場所ですが、行ってみるとやっぱり懐かしい。昔話は尽きません。今も競技を続けている後輩に、次の五輪を目指している人もいました。やはり東京でやるというのは高いモチベーションになっているようでした。
馬術は、馬というパートナーが欠かせない競技。選手本人だけでなく馬のコンディショニングも大事な要素です。長距離輸送がないというだけでも、地元の地の利は大きいのでは。それにリオ五輪なんかを見ていても、もう世界トップとの差も紙一重のところまで来ていると思うんです。男女の区別なく争うという点は、ジェンダーレスの今の時代にマッチしているのではないでしょうか。2020年東京五輪を機に馬術競技の魅力が多くの方に伝わってほしい。馬を身近に感じるきっかけにもなってほしいと思います。
(2017年4月26日東京本社版掲載)
【注】年齢、記録などは本紙掲載時。