<タレント はるな愛>
私にとって強く印象に残っているのはアトランタ五輪女子マラソンで有森裕子さんが本当に体力を出し尽くして、「初めて、自分で自分をほめたいと思います」と話したあのシーンなんです。私は7年前に24時間マラソンを走らせていただきました。本当につらくて、何度もくじけそうになりました。ゴールした時はメークが全部落ちていたので、あの顔が本当に輝いていたのかは半信半疑ですけど(笑い)、有森さんのあのシーンは自分の人生を本当に走り遂げたからこそ出た言葉だと思います。
五輪選手が発する言葉って、1個1個重く感じます。北島康介選手の「超気持ちいい」も本当にやり切った時に、体の中から出た言葉ですね。私の中で自分をほめてあげたいと思える瞬間は、大西賢示(本名)としての人生を悔いなく生きて、目を閉じて幕を引く時にやってくればいいなと、思います。
パラリンピックからも勇気をもらいます。受けるメッセージはこちらの方が大きいとも思っています。私は性のマイノリティー(LGBT)ですから、周囲からの偏見や差別を感じたこともあります。だから、困難を乗り越えて、一生懸命やっている人たちを見ると心を打たれるんです。
米陸上の10種競技、モントリオール五輪金メダリストのブルース・ジェンナーさんが性同一性障害を公表して、ケイトリンと改名しました。彼女は男性競技者だった当時から、女性である「本当の自分」との葛藤もあったでしょう。65歳で性別適合手術を受けて「本当の自分になれて幸せ」と第2の人生を歩き始めると、改めて感動した人や勇気をもらった人がいるんです。
だからこそ、東京五輪はLGBTも何かを発信できる場所であって欲しいです。例えば、開会式で「平和の鐘」をきっかけにそれぞれがハグするんです。同性愛のカップルなら男同士女同士でキスするとか。「平和の鐘」で愛をつなげて、広げられるような演出ができればいいなと1人で考えています。可能であればその先導役もやってみたいんです(笑い)。
本当は、五輪とパラリンピックを一緒にして、競技ごとに部門で分けることができれば、一番のバリアフリーにもなるし、「みんな一緒」という希望につながるとも思うんです。東京五輪がそのきっかけになる大会になって欲しい。火曜日を担当している「大竹まことのゴールデンラジオ」(文化放送)でもよく触れるんですけど、今の世界情勢は不穏ですよね。だからこそ、地球上のみんな一緒に五輪という正々堂々とした場所で戦う。これこそ平和の姿だと思うんです。
(2017年5月17日東京本社版掲載)
【注】年齢、記録などは本紙掲載時。