現役最年長48歳の翔傑 次世代力士に伝えたい思い
大相撲の48歳現役最年長力士、西三段目70枚目の翔傑(芝田山)が、力士生活30年目に突入した今の思いを明かした。
静岡・天城湯ケ島村(現伊豆市)出身で、初土俵は1995年(平7)春場所。西幕下4枚目の最高位や元横綱稀勢の里(現二所ノ関親方)の付け人を務めた経験などを生かし“角界の中間管理職”としての存在感も示している。
まだまだ土俵で奮闘し続ける秋場所(9月8日初日、東京・両国国技館)も注目だ。
大相撲
生涯成績614勝604敗
翔傑は9月5日に48歳の誕生日を迎えた。
2022年春場所で51歳だった華吹(はなかぜ)が引退後は、角界最年長力士として君臨。生涯成績614勝604敗。大きなケガなく現役生活を続けてこられた「鉄人」の秘訣(ひけつ)の1つは継続にあった。
「よほどしんどい体ではない限り、稽古場に下りるということ。相撲をやる、やらないはありますけれど、新弟子くんたちが相手してほしいと言えば相手をしますし。自分より年上はいないですから、若手を育てるだけですね」
「新弟子くん」と呼ぶ力士たちに胸を出すことも、必要な稽古だ。
とはいえ、部屋の最年少は、自身より番付は上の東三段目60枚目24歳東国。30歳を超えた他の力士も、翔傑にとっては「新弟子くん」だ。
だが、番付上位の力士を含め、部屋の稽古場で一番強いと言っても過言ではない。近年は関取衆と稽古することはほとんどなくなったが、今でも土俵で結果を出すために試行錯誤することに変わりはない。
「全力で相撲をとって、勝負はその先にある。手を抜いたら抜いた分、自分に返ってきますし、全力でやってダメだったら、それはそれでしょうがない。それでも、やっぱり本場所は状況が変わる。それについていけていないなあ、と思うことが、29年やっていてもまだある。雰囲気にのまれているわけではないんですけれどね」
本場所は特別だ。
一番一番に重みもある。1勝で番付も大きく変わる。
その重要性を理解しているからこそ、いろいろなことを考え、悩み、普段のように体が動かなくなることも感じている。そこも不変だ。
「無駄なこと考えるんです。余計なことを。立ち合いで変わられたりするのは相手が勝負を逃げた話だけなのでいいんですけれど、その後ですよね。稽古場だったらなんてことなくできることが、あの土俵上の一番にかける、たかだか10秒かからないくらいですけれど、できなくなる時がある。独特な空気に包まれているんですよ」
30年続けて感じる移り変わり
一方で、取組後の心境や相撲を離れての過ごし方は、年齢を重ねるごとに少しずつ変わりつつある。
「負けたら支度部屋まで帰ってきても自分にイラッともします。でもそれを続けたところで次につながらない。昔は永遠に、部屋に帰ってもしゃべりたくないみたいな。物に当たったりとか。でも、そうやったところで何も返ってこない。最近はSNSとかでもいろいろ(取組のこととか)書かれることもありますけれど『だから何?』っていう話で…。次は次って考えればいいってこと。自分も考えますし(対戦する)向こうも自分がどう相撲をとってくるのかを考えてくる。それが分かって(土俵に)立つのか、何も分かっていないので立つのか、いろいろある。土俵上の結果はあくまでも自己責任なんです」
場所中を含め、アスリートにとってはオフの過ごし方も重要だ。
「気分転換するのも、若い頃はどこか食べに行ったりとか、自転車に乗ってどこかにフラフラッとしたりはありましたけれど、最近はあえて体力を使うのもなあって」
師匠の芝田山親方(61=元横綱大乃国)からの信頼も厚い。「アドバイスは『ケガするなよ』くらいですよね」。
部屋の力士や裏方さんたちからも慕われ、稽古相手だけでなく、生活面などの相談を受けることも多い。
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