フランス代表MFグリーズマンの“状況に応じた判断力”がとてつもなかった。前半5分、DFバランへボールを受けに下がるフリをして、裏へ。相手DFを出し抜いてここまで1失点の強固なモロッコの守備を崩し、先制点につなげた。

グループリーグ第3節のチュニジア戦でも評論したが、その時は途中出場からワンタッチパスでリズムを作っていた。この試合では、前半目立った裏抜けのランニングやボールを引き出す動きで起点になりつつ、後半は最終ラインで守備に奔走した。1人で守備から攻撃までなんでもやれてしまう。味方にいたら頼もしすぎる存在だと思う。

なぜこのような選手が生まれるのか。1つの理由として「教育」があるのではないか。以前にも書いたが、海外に「習い事」という文化、感覚はない。先生から一方的に教えられるのではなく、自ら能動的に学びに行く素地がある。そうでなければ、グリーズマンにはなれない。試合中にピッチを見渡しながら本能的に学習して、判断している。

グリーズマンの存在に、日本サッカーの将来をみた。今大会、日本代表は素晴らしい戦いを見せてくれた。リアクションと辛抱強いサッカーで世界に通用する姿は見せた。ここからもう1段階上を狙うには、少しでも彼と近いレベルで状況に応じた判断ができる選手が欲しい。

冨安がクロアチア戦前、「欲を言えば、(スペイン戦とドイツ戦)ああいう戦い方、アジャストする形ではなく、僕たちが主導権を握って勝てるようになっていければ、次のステップに進むことができるんじゃないかなと思っています」と言ったという。主導権を握る戦いができてこそ、積み上げができる。ただ、主導権を握る=ボールを持つ、ではない。この試合でのボール保持率はモロッコの62%に対してフランスは38%。堅守速攻スタイルのモロッコにボールを持たせて勝利したフランスは、ある意味で粘り強く守りながら主導権を握ったといえるのではないか。それができたのも、状況に応じた判断の精度が抜群に高い、グリーズマンの存在は大きい。(小林大悟=元プロサッカー選手、元日本代表MF)

フランス対モロッコ 後半、ドリブルするフランス代表アントワヌ・グリーズマン(撮影・横山健太)
フランス対モロッコ 後半、ドリブルするフランス代表アントワヌ・グリーズマン(撮影・横山健太)
フランス対モロッコ 後半、ドリブルするフランス代表アントワヌ・グリーズマン(撮影・横山健太)
フランス対モロッコ 後半、ドリブルするフランス代表アントワヌ・グリーズマン(撮影・横山健太)