最後まで緊張感のある試合だった。クロアチアとモロッコの3位決定戦は、大会史上に残る好ゲームになった。ともに体力的には苦しかったはず。それでも旋風を起こした今大会の勝ち上がり同様に、最後まで集中し、粘り強く戦った。
「3決は不要」だと思っていた。3位には選手だけでなく監督らスタッフにも銅メダルが贈られる。賞金も200万ドル(約2億8000万円)ほど多い。それでも、大会のたびに「不要論」は出たし、選手や監督も反対の声をあげた。
現行の16チームによる決勝トーナメント制になった86年メキシコ大会。大会を盛り上げたフランスの将軍プラティニは3決を欠場した。若手に任せスタンド観戦。その後も主力の欠場は多く、若手の経験の場になることも少なくなかった。
試合というよりも、大会を盛り上げながら決勝進出を逃した2チームの「カーテンコール」。勝負を優先して堅い試合になることが多い決勝戦と違い、ノープレッシャーで派手な点の取り合いも多かった。
得点王を狙う選手のための「ボーナスステージ」でもある。過去単独得点王18人のうち8人は3位から、優勝3人、準優勝4人より多い。試合よりも個人タイトル争い。過去の優勝国は知られていても、3位の国は意外と知られていない。勝敗は二の次なのだ。
クロアチアとモロッコは違った。ともに故障や体調不良で欠場選手はいたが、勝利へのこだわりを感じる布陣だった。クロアチアのモドリッチは精力的にチームをけん引、モロッコも全力で相手ゴールを襲った。テレビ画面を通して試合の「熱」が伝わってきた。
背負っているものの違いなのか。何度も優勝やベスト4を味わっているチームには「不要」でも、クロアチアとモロッコにとっては「必要」な試合だった。
わずか人口400万人の小国クロアチアにとって、W杯こそが自国の存在を示すチャンス。国の英雄でもある37歳モドリッチは内戦の悲しい過去も知る。その「ラストダンス」を勝利で飾る大切な目標もあった。
モロッコはアフリカ勢初の3位がかかった。同時に初めて中東で行われた大会でイスラム教の国として結果を残したかった。レグラギ監督は「祖国のために」と選手を鼓舞していた。
W杯がクラブの大会と違うのは「国を背負う」ことだ。かつて「政情不安な国ほど強い」と言われた。実際、戦時下や大災害に襲われた国が好成績を残した例は少なくない。11年のなでしこジャパンも、震災からの「復興」への思いが力になったのは間違いない。
クロアチアもモロッコも強豪を撃破して、勝ち進んだ。PK戦を制した一因は精神力。「国のため」の覚悟が、強い精神力を生んだのかもしれない。その集大成がこの日の試合。満身創痍になりながら最後まで勝利を目指して戦った両国の姿は、今大会を象徴していた。3決も「必要」だ。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)