冷静さと優れた状況判断は、高校時代から身につけていた。DF熊谷紗希(24=リヨン)が所属した宮城・常盤木学園高の阿部由晴監督(52)は、あの試合を鮮明に覚えている。

 熊谷が高2の時、2連覇をかけた07年度の全日本女子ユース決勝。日テレ・メニーナに0-1とリードされて後半を迎えた。阿部監督はハーフタイムで「FWに早めにボールを集める」と、素早い攻撃からの得点指示を出した。ところが1年生からボランチのレギュラーとなり、既に中心選手だった熊谷は指示を無視した。当時のチームの持ち味、パスを回す組織的なサッカーをした。

 「監督だけ舞い上がっていたよ」と阿部監督は懐かしむ。らしさを貫けば勝てると熊谷は分かっていた。後半26分「真ん中で球を持つとGKが前に出てくる」と、中央から約30メートルのミドルシュートで自ら同点にした。同監督は「当時から勉強もサッカーも集中力が違った」と言う。味方が決勝点を奪ったのは、その8分後だった。熊谷は成績優秀者を集めたクラスに入り、東大合格レベルの学力があった。その頭脳は、サッカーにも生かされた。

 フル出場した前回のW杯ドイツ大会。4年後の今大会を見据え、外国人に負けないスピードと屈強さを得るためにフランクフルト(ドイツ)、リヨン(フランス)と移籍しながら、海外で鍛えた。なでしこジャパン不動のセンターバックは、頭脳明晰(めいせき)に加え、フィジカル面でもひと回り成長している。【久野朗】