- 後半、フランスのエムバペにゴールを決められ悔しがるモドリッチ(撮影・PNP=2018年7月15日)
いつの間にか、クロアチアに感情移入していた。頬がこけ、目がくぼんだモドリッチ。疲れがあるのは明らかだったが、最後まで力を切らすことはなかった。初出場から20年で初の決勝進出。その20年前に初優勝したフランスに挑んだが、4ゴールをぶち込まれて悔しい準優勝に終わった。
多くの日本人は、クロアチアを応援していたのではないかと思う(フランスファンのみなさん、すみません)。それほど、人の心を引きつけるものがあった。決勝トーナメント1回戦から3試合連続延長戦。30分3回計90分で、フランスより1試合分余計に試合をしたことになる。さらに、準決勝から中4日の相手に対して中3日。コンディションのハンディを精神力で補う戦いに世界は酔った。
最後は、今大会を象徴するようにVAR判定が試合を分けた。1-1で迎えた前半38分、CKのボールがペリシッチの左手に当たった。主審がモニターに走った。1次リーグで見慣れたが、決勝トーナメントでは珍しい光景。試合のスピード感が一気にうせた。
- 前半、VAR判定でPKを指示する主審(撮影・江口和貴)
結果はPK。ペリシッチの手に当たっているのは事実だから、仕方ないともいえる。ただ、これをハンドと取るかどうか。1度離れてピッチに向かった主審が再びモニターの前に戻るほど微妙な判定。仮にこの1点がなく1-1のまま前半を終えていれば、結果は変わったかもしれない。
過去、W杯に「誤審」や「微妙な判定」はつきものだった。マラドーナの「神の手ゴール」など数々の名場面は、今大会から導入された「機械の目」で一掃されるはずだった。しかし、このPK判定には世界中から疑問の声があがった。最後の最後で「審判問題」が再び浮上してしまった。
- ゴールデンボール賞(大会最優秀選手賞)で表彰されるクロアチアのルカ・モドリッチ(撮影・PNP=2018年7月15日)
MVPトロフィーを手にしても、モドリッチに笑顔はない。決勝戦終了前に決めるとはいえ、過去6大会連続優勝チーム以外からの選出で「敢闘賞」にしか見えない。欲しかったのは優勝、そして420万国民の歓喜だった。172センチの体を酷使しながら戦った英雄が、まぶしく見えた。
大会は終わった。心に残ったのはドイツ、ブラジルの早期敗退と、ベルギー、クロアチアの躍進。良くも悪くも、フランスは強かった。そして、もちろん低評価を覆した日本-。長いようで短かった1カ月は終わった。初めて生で見て心を奪われた82年スペイン大会から10大会目。やっぱり、W杯はおもしろかった。(おわり)
【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)