決勝トーナメントが始まり「ひょっとして」と優勝への期待が高まるイングランド。だが同時に「またしても」と、PK戦による敗退への不安も国民の頭をよぎる。母国代表は、過去の国際大会で通算1勝6敗と、PK戦に“めっぽう弱い”のだ。
しかも、PK失敗の代表格は現代表監督のサウスゲートときている。イングランドが、史上2度目の国際大会優勝への期待に沸いた96年、欧州選手権準決勝でキッカー6番手を買って出た当時の代表DFは、弱々しいPKを楽々と相手GKに止められた。そそくさとゴール前に向かう歩き方から、深呼吸の1つもせずに放ったキックまで、焦りしか感じさせないPKだった。
国内では有名な「ピザハット」のテレビCM出演も同年。90年ワールドカップでPKに失敗した代表の先輩2人に、ピザ屋でいじられながら励まされる設定で、人目を気にして頭から紙袋をかぶったサウスゲートは、ピザを頬張るなり紙袋を脱ぎ「おかげで少し気が晴れました」と言って席を立つのだが、慌てて壁にぶつかり「今度はポスト直撃か」と言われてオチがつくのだった。
それほど、サウスゲートと言えばPK失敗。去る6月30日、ロシア大会の決勝トーナメント開始を告げるガーディアン紙のスポーツ1面にも、22年前に自信なげにペナルティーマークにボールを置く、サウスゲートの写真があった。
だが、頼りない印象を覆したと言われるようになった現在は、監督としてPK戦への準備にも抜かりがない。代表合宿でのPK練習は3月の国際親善試合前から継続中。本番さながらに、選手にはセンターサークルから歩いてPKを蹴らせる念の入れようだ。キッカーを指名する上で重要なポイントになる選手の精神構造を把握すべく、半年以上前から心理学者がチームスタッフに加えられてもいる。
決勝トーナメントで12年ぶりの勝利を目指すイングランドは、コロンビアとの16強対決がPK戦に持ち込まれても、例年になく準備万全。まずは、落ち着いてペナルティーマークへと向かうことだ。ベンチ前で見守る監督を反面教師として。(山中忍通信員)