英国庶民の味の1つに「マーマイト」がある。酵母が原料の発酵食品で、トーストに塗って食べたりする。色は黒っぽく、においも味も塩気が強い。のりのつくだ煮を連想する筆者などは大好物だが、逆に大嫌いな人も多い。実際、好き嫌いが極端に分かれる物の代名詞になっているほどだ。
「マーマイト」と呼ばれる選手の1人が、ベルギー代表MFのフェライニ。失点を防げなかった日本代表に限らず、194センチ、85キロの巨体が繰り出すヘディングは相手ゴールを脅かす。効果的ターゲットマンで、胸トラップのうまさはプレミアリーグ最高級だ。
しかし、フィジカル全開の持ち味が、足元でつないで攻めるサッカーを望む人々の嗜好(しこう)に合わない。所属するマンUでは、パワープレーに転じる際の武器としてモウリーニョ監督のお気に入りだが、ファンの間では「マンUにあるまじき選手」として嫌われてきた。6日にベルギーが4強入りを決めたブラジル戦でも、イングランドのメディアでは、軽快な攻撃が身上の「ベルギーらしくない」フェライニの先発が意外とされた。
しかし、中盤に強さを欲したマルティネス監督にすれば、期待通りに持ち味を発揮。嫌いな人の目には鈍重と映っただろうが、のしのしと動きながら敵の進路を封じ、シュートブロックも繰り返した。前半のチャンスで放ったシュートは、ぎこちないトーキックではあった。技巧派のE・アザールなら、意表を突くタイミングで狙ったとでも言われそうだが、フェライニの場合は、どうしていいか分からず蹴ってみたと解釈されそうな弱いシュートだった。
だが、そのシュートで得たCKから先制点が生まれた。デブルイネの鮮やかなミドルによる追加点も、カウンターのきっかけは、相手CKをクリアしたフェライニのヘディング。中盤のフィジカルの強さは、ブラジル相手に逃げ切りを可能にした要因の1つだった。「食わず嫌い」の人は、準決勝フランス戦でフェライニにも着目してみるといい。そして、1度味を覚えると病みつきになる「マーマイト」を味わってみては?(ロンドン=山中忍通信員)