サッカー界では近年、けが人増加が大きな問題となっている。スペインリーグも例外ではなく、今季開幕からわずか1カ月半にもかかわらず、すでに100人以上の負傷者が出ている。
■Rマドリードは前人未到7大会参加
昨季の王者レアル・マドリードはこれまで、カマビンガ、ベリンガム、バジェホ、セバージョス、チュアメニ、ブラヒム・ディアス、カルバハル、エムバペ、クルトワの9人がけがを負い、アラバは昨年12月の前十字靭帯断裂の重傷からまだ復帰できていない。
リーグ首位のバルセロナも同様に苦しんでいる。アンス・ファティ、クリステンセン、エリック・ガルシア、フェルミン・ロペス、ダニ・オルモが負傷し、テア・シュテーゲンと17歳のマルク・ベルナルにいたっては大けがで今季絶望となり、ガビとアラウホは開幕前からリハビリを続けている。
久保建英が所属するレアル・ソシエダードも今季中の復帰が困難となったトラオレを筆頭に、スベルディア、オドリオソラ、ザハリャン、バレネチェア、エルストンド、スチッチ、ブライス・メンデス、オヤルサバル、ハビ・ロペス、ベッカーと、11人がすでにフィジカル面に何らかの問題を抱えている。
マジョルカでは今季加入した浅野拓磨が7試合目にして筋肉系の問題を抱え、ここ2試合を欠場し、これまで計7人が負傷している。
なぜこんなにもけが人が続出しているのか? その主な原因として、試合数増加により選手たちがベストコンディションを維持できていないことが挙げられる。以前から選手、監督から不満が続出しているにもかかわらず、年々試合数が増えているのが現状だ。
今季からフォーマットが変更された欧州チャンピオンズリーグ(CL)は、最大で4試合(13試合から17試合に増加)多く戦わなければならない。クラブワールドカップは以前7チームが参加し、欧州代表は2試合で済んでいたが、来夏からは32チーム参加で最大7試合を戦うビッグトーナメントへと変貌する。これまでクラブワールドカップと呼ばれていた大会はインターコンチネンタルカップとしてリニューアルされ、欧州代表は決勝の1試合を戦うためだけに、12月にカタールへ遠征しなければならない。
昨季の欧州CL王者Rマドリードは今季、これらすべての大会に参加せざるを得ず、前人未到の7大会に臨むこととなる。そしてもしすべてに勝ち続けたならば、1シーズンの公式戦の数がクラブ史上最多の72試合に到達する。
■「スポーツ面より経済面が重要視」
試合数増加の影響を受け、最近はプレシーズンでの準備不足も問題視されている。特に今夏は欧州選手権、南米選手権、オリンピックが開催されたことで、上位のクラブは多数の代表選手を欠き、まともな準備ができないまま新シーズンに突入しなければならなかった。
Rマドリードを例に挙げると、代表戦に参加したエムバペ、カルバハル、ベリンガム、バルベルデ、チュアメニ、カマビンガ、メンディがチームに合流できたのは、8月14日に開催された欧州スーパーカップのわずか1週間前。こんな状態で素晴らしいパフォーマンスを発揮することなど不可能だろう。
スポーツ医学と外傷学の専門家であり、長年ラヨ・バリェカノの医療チームの責任者を務めるゴンサレス・ペレス医師は、現在の状況を大いに危惧しているひとりだ。
「今季も昨季同様、シーズン開幕からけが人が飛躍的に増加しているが、現在のプレシーズンは昔とは違う。本来は新シーズンに向けて体が耐えられるよう、フィジカル面の準備期間であるべきなのに、今はスポーツ面よりも経済面の方が重要視されている」と、各クラブが収入を得る手段としてこの期間を利用していることを指摘した。
今夏多数の選手を代表に貸し出したRソシエダードがフランスでのテストマッチを急遽キャンセルし、弾丸で日本ツアーを行ったことはその一例と言える。スポンサーの意向を受けたクラブのこの決定にアルグアシル監督は不快感を示していた。プレシーズンを満足に過ごせなかった影響は開幕直後から顕著に現れ、第8節を終えた今も尾を引いている。
ゴンサレス・ペレス医師は続けて、「シーズン終了と同時に、選手は筋肉を休ませるためにしっかり休みを取る必要がある。少なくとも10日間は何もしてはいけない。しかし、今はプレシーズンに入って2日後には遠征に出されてしまう」と嘆き、「運営側は財源を満たしたいと考えているが、必ずしも目的が手段を正当化するとは限らない。この蔓延した疫病の責任はFIFA(国際サッカー連盟)、UEFA(欧州サッカー連盟)、そしてクラブにある」と選手を管理する側の姿勢を非難した。
■「今季は80試合に達する可能性が」
実際、負傷者の数は22-23年シーズンが534人、昨季が695人であるのに対し、今季は1カ月半ですでに100人超えと、年々増加傾向にあることが分かる。
Rマドリードのアンチェロッティ監督も現在の状況を顧みて、「サッカー界は反省する必要がある。選手たちは試合数が減るなら減俸を受け入れるはずだ」とコメントした。
選手の中にも今の状況に異を唱える者がいる。昨季、スペイン代表とマンチェスター・シティーで計63試合に出場し、優勝を成し遂げた欧州選手権でMVPに輝いたロドリは試合数増加による懸念から、「その可能性は近いと思う。どの選手に聞いても同じことを言うだろう。この状況が続くなら他の選択肢がなくなる時がやって来ると思う」とストに突入する可能性を示唆した。
そして「60~70試合もプレーするのはベストなことではない。選手は40~50試合ならトップレベルでプレーできると思うが、それ以上となるとパフォーマンスが落ちてしまう。今季は80試合に達する可能性があるが、控え目に言ってもやりすぎだ。本当に懸念すべきことであり、僕たちは苦しめられている」とサッカー界が危機的状況にあることを強く訴えた。
こう話した矢先、ロドリ自身が前十字靭帯断裂の重傷を負い、早くもシーズンに別れを告げることになってしまった。
■選手にベストな試合数は40~50
現在、選手たちがシーズンを快適な状態でプレーするための条件がさまざまなところで議論されているが、ロドリが話したように1シーズンのベストの試合数は40~50試合と考えられている。
その一方で、代表とクラブで昨季72試合に出場したRマドリードのウルグアイ代表MFバルベルデのような選手がいる。今季は80試合、そしてワールドカップが開催される来季は83試合に達する可能性もあるという。
現時点におけるスペインリーグの負傷者数やこうした選手がいることを考えると、早急の対応が必要なのは間違いない。サッカー界を組織する側は今後どのような改善策を施していくのだろうか。
このまま何も変わらず、さらに試合数が増加していくのなら、選手たちによるストも現実のものとなるだろう。この非常に悪い流れを変える大改革が近いうちに行われることを期待したい。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」