ワールドカップ(W杯)出場を目指す若手選手の「こだわり」に迫るシリーズ最終回は、SH茂野海人(28=トヨタ自動車)。密集からのパス出しが基本プレーのSHらしからぬ、攻めのランで代表入りを狙う。テンポの速いパスだけではなく、自ら走ってゲームのリズムを作る。

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15年春。茂野は失意の中でニュージーランド(NZ)に旅立った。「もしもラグビーを楽しめなかったらこの後どうしようかな」。ラグビー人生の終止符が頭をよぎった。ただ、そんな悩みは杞憂(きゆう)に終わった。それどころか大きな収穫、自信を手にして帰国した。

島根・江の川高で花園に出場し、大東大で主将を務め、卒業後はNEC入り。ラグビー人生は順風満帆にも思えるが、試合出場機会に恵まれず、思うようなプレーができなかった。「社会人になってからラグビーを楽しめない時期があった」と悩んでいた時に、NECの海外派遣制度の一員に指名された。NZの名門ポンソンビークラブに留学が決まり、チームの辻高志コーチから「楽しんでやってこい」と背中を押された。

15年12月、ラグビートップリーグでトライを決めたNECのSH茂野海人(左)はSO田村優に祝福される
15年12月、ラグビートップリーグでトライを決めたNECのSH茂野海人(左)はSO田村優に祝福される

NECではSO田村優の大きな存在に頼りっぱなしで、パス出しに専念していた。だが本来は「ボールを持って走るのが好き」。いつしか封印していたプレーをNZで解禁。ボールを持ち出してからのパスや、密集で空いたスペースを自らのランで突いた。SHらしからぬ積極的なランは、オークランド州代表に選出されるまでに評価された。伝統ある国内州代表選手権ITMカップに出場し、準優勝に貢献。「これは自分の強みになるし、自信にもなる。こういうラグビー、楽しいな」。つかんだ手応えでラグビー人生が変わった。

密集の中から、やみくもにボールを持ち出すわけではない。全てはボールに触れる前に決めている。「ディフェンスの1枚目、2枚目の選手の目です。どこを見ているのか。外を見ていたら僕のことは気にしていないな、とか」。常に密集からパスを出すのがSHの役目。密集に向かい、SOやFWからのパスを要求する声を聴きながら、密集サイドの状況を見極める。耳は味方に傾けて、目でスペースを突く。それが積極的なランへとつながる。

 
 

ランの基礎はNEC時代に築いていた。現役時代にSHだった指導者と初めて出会ったのが辻コーチ。「なかなかしごかれました」と徹底して教えられたことは「投げた後の3歩」だ。パスをした後のサポートが目的。だがその3歩の意識が、ランへの踏み出しの1歩にもつながった。

高校、大学で1度も縁がなかった桜のジャージーに、社会人4年目にしてようやく袖を通した。だがW杯に向けては田中史朗や流大らとの激しい代表争いが待っている。「ボールを持ち出して積極的な動きができれば、ふみさん(田中)や、ゆたか(流)とは違った色が出せる」。代表入りへ走り続ける【佐々木隆史】