<12球団担当記者が見た 今季のターニングポイント セ・パ4位>
24年シーズンは、セ・リーグ3位のDeNAの下克上日本一で幕を閉じた。12球団それぞれに、今季の成績を左右した「瞬間」がある。「12球団担当記者が見た 今季のターニングポイント」と題し、密着取材を続けてきたからこそ知る分岐点を記す。第3回は、両リーグ4位の広島と楽天。
- 9月、中日に敗れた広島新井監督
■9月に急失速
チーム内に生じたわずかな“ほころび”が、広島の9月の急失速を招いたのかもしれない。
まだ首位にいた8月27日の中日戦。3回に先制するも、ミスから逆転を許した。4回2死一塁からカリステの二遊間への当たりを遊撃矢野がはじいて後逸。直後に先発森下が石川昂に逆転の2点打を浴びた。打線は序盤から中日先発の高橋宏にプレッシャーをかけようと、バント策を多用した。得点圏に走者を進めようとするも、9回まで犠打成功は1度のみ。バントファウルは計7度を数え、好投手攻略の扉を重くした。
試合は1-2で敗れた。球場は鬼門バンテリンドームで、相手は球界を代表する右腕。チームの連敗は約1カ月ぶりで、順位もゲーム差なしの1位と、敗戦を受け入れられる条件はそろっていたように感じられた。だが、新井監督は今季得意とした接戦をミスが絡んで敗れた内容以上に、ベンチの中で感じたチームの雰囲気に危機感を感じた。
「この負けは、これまでの1敗とは違うように感じた。この雰囲気はまずいなと。このままズルズル行くかもしれない。ただ、そんな雰囲気にしたのも自分。自分がどうするのか」
切り替えと反省、緊張と緩和…。「何事も中庸」と、新井監督が大事にしてきたバランスが崩れていった。それまで3点差以内の試合は42勝32敗と勝ち越していたが、あの試合以降は6勝13敗と勝ちきれず。4点差以上も含めれば、あの試合から9勝24敗と苦しんだ。試合後に感じた“ほころび”を最後まで修復できず、急失速を止められなかった。【広島担当=前原淳】
- 9月、ロッテ戦で邪飛に倒れた石原(右)に厳しい表情を見せる楽天今江監督
■CS争い脱落
送りバント-。今季の楽天を象徴する攻撃だ。だが、多用してきた戦術がCS争いの大詰めでハマらなかった。印象的なシーンがある。4位で迎えた9月26日の日本ハム戦。1点を追う9回1死一塁から渡辺佳に犠打のサインが出る。一塁方向に転がし2死二塁としたが、続く代打鈴木大が一ゴロで試合終了。勝てば3位ロッテとゲーム差なしの一戦を落とし、ここから泥沼の8連敗が始まった。
その4日後。ロッテとの直接対決でも同様の場面があった。守護神・則本が1点を勝ち越された直後の9回の攻撃。1死一塁で犠打を試みた石原が初球を打ち上げ捕邪飛となり、続く小郷は右飛に倒れた。ロッテとのゲーム差は4に広がり、翌日も敗れてCS進出の可能性が完全消滅した。
まずは同点にして相手にプレッシャーを-。野球のセオリーとして間違いではないだろう。だが、「1点を追う9回1死」から選択する攻撃だったのか。今江敏晃前監督(41)は「なかなか長打が出ないので、塁に出て相手にプレッシャーをかけて、1つずつ進み1点ずつ取っていく」と手堅い戦術を好んだ。チーム犠打数はリーグトップの126。個人で小深田が1位タイの25、太田、村林が3位タイの23と上位を占めたのは、その表れでもあった。
確かに打線の迫力不足は否めなかった。チーム最多本塁打は浅村の14本。チーム本塁打数はリーグ2位タイだった昨季の104本から同4位の72本に減少した。それでも、浅村、辰己、小郷ら好打者が多いだけに大爆発する下地はある。三木監督体制となる来季。攻撃面の変化に注目したい。【楽天担当=山田愛斗】