デビュー作「アイドル失格」から2年。NMB48安部若菜(23)が、「夢」をテーマに5人の高校生の葛藤と成長を描いた小説第2作「私の居場所はここじゃない」を、明日6日に発売する。幼少期から本に慣れ親しんできた安部が、作品に込めた思いと、“小説家・安部若菜”としての思いを語った。
■「夢」軸に執筆
8月の夏公演で明らかにされた「私の居場所はここじゃない」が、いよいよ発売になる。安部は「1作目を書いてる時点から、できれば2作目を出せたらと思ってました。1作で終わるのもイヤで」と笑う。
テーマ決定は難航した。プロットを考えているうちに1年近くがたった。決まったテーマは「夢」。
「自分の中の言葉を書き出していって、『夢』というのが自分の中で大きな存在だと気づいた。『アイドル失格』も夢が関わってくる話。今、アイドルという仕事をして夢をかなえて、また、夢を探している。夢が大きなことだったので選びました」
テーマさえ決まれば早かった。2作目であり「慣れ」も手伝い、ページ数はほぼ1作目と同じにもかかわらず、執筆時間は前回の3分の1程度だった。
内容は、芸能スクールに通って、オーディションを目指す男女5人の高校生の物語。前作も高校生が主人公だった。
「高校生ってだんだん現実が見えてくるけど、自分の理想や夢があって、その間で揺れる年頃だったなって自分でも思える」
5人の個性もバラバラにしたいと思い、メンバーやスタッフ、家族などを観察、取材して練り上げた。
前作は漫画化、ドラマ化もされた。「アイドル失格が本としてだけじゃなくて、NMBの中にすごく溶け込んでいったのがうれしい」と喜び、今回も「そうなってくれたら、一番うれしいですよね」と期待する。
■感想聞かせて
アイドルとして人前に立つ今の姿からは想像できないが、内気な性格で友達ができず、「本が友達」の少女だったという。
「本は昔から自分にとって逃げ場みたいな。今はちょっとした合間にスマホを触ることが多い。スマホは外からの情報が入ってきますけど、本は開いちゃえば、その世界に入りこめて落ち着く。現実に疲れた時にも本を読んだ方が後々良かったなって思える。通勤途中に本を読んでいる人とかを見ると、かっこいいなって思える(笑い)」
安部にとって、本は「鏡」とも言う。
「昔、好きだった本を読み返したりもするんですけど、受け取り方が全然違ったりして。本ってずっと変わらずそこにあるからこそ、より自分がよく見える。ずっとその時々の自分に寄り添ってくれる」
今も忙しい合間に月に2~3冊は本を読む。
「気づいた時には本や絵本を読むのは好きだったので、今につながってるのかなって思うとうれしい」
幼少期にすでに絵本を書いており、小学生時代の作文には「物語を書きたい」。小説を書いてみたいと思うのも自然な流れだった。
書き始めて気づいたこともある。
「日常とか人生のいろんなことが生かされてる気がして。落ち込んだり挫折したり、めっちゃ怒ったりしても『あ、これ覚えとこ』って前向きに物事を見れるようになりました。アイドル失格を出して『早く2作目も読みたい』と言ってくれる方がいることもうれしかった」
気持ちの変化や周りの期待に対するモチベーションが今作に投影されている。
「アイドル失格を読み返してみても、主人公のアイドルとオタク、2人とも暗いなーって感じたり(笑い)。今回は人との関わりを通して、それぞれが成長したりするんですけど、それはこの自分の数年間を振り返ってみても、そうだったのかなって。その時々の自分で、きっと同じテーマを書いても、全然違うふうになるんだろうな、知らず知らずのうちに反映されてる部分はあるんだろうな、って思います」
同時に、自身を客観視して「でも、ああしたら良かったかなってのはありますけど、一生正解は見つからないんだろうなって思うので、今は毎回、自分のベストを尽くせたらいいなって思います」。
それだけに、読者には「今回、5人主人公がいて、それぞれ『自分はこの子に近いかな』とか『この子に共感する』ってあると思うんですけど、数カ月とか数年後にふと読み返して『今はこの子の気持ちが分かる』って、読んだ人の状況によって、そういうのがあったらおもしろいし、ぜひ聞かせてほしい」と言う。
■賞も欲しい
一方で、アイドルが小説を書くことに“引け目”も感じると吐露。「遊んでるとか見えたりするんかな、とか。ネガティブなんで。そういうドキドキもある」と苦笑いする。と言いつつも「それを乗り越えるのも自分の文章しかない。うならせられるようになりたい」と前向きに続けた。
作品を送り出す以上、無欲でもない。もらえるものなら賞もほしい。「なんでも取れたらいいな。直木賞とか本屋大賞とかすごく話題にもなる。そういう作家さんを見るとすごくあこがれますし、コンスタントに出し続けたい」。
大阪を舞台にした話や難波で活動するアイドルを素材に書きたい気持ちもある。「今は現役アイドルが書く本ですけど、いつかは安部若菜を『作家の人やと思ってた』と言われるくらいになりたい」。安部の思いが詰まった作品に触れてみてほしい。【阪口孝志】
◆安部若菜(あべ・わかな)2001年(平13)7月18日生まれ、大阪府出身。チームB2。18年1月にドラフト3期加入。20年1月、正規昇格。同10月「恋なんかNo thank you!」で初選抜。22年11月、「アイドル失格」で小説家デビューを果たす。身長159センチ、血液型O。愛称は「わかぽん」。落語、読書、料理など多才。