10月期の秋ドラマが出そろった。刑事、弁護士、探偵など手堅いミステリーが豊富なほか、「アンナチュラル」チームがTBS系日曜劇場に初登板する話題作「海に眠るダイヤモンド」も大スケールでスタートした。「勝手にドラマ評」60弾。今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(主要枠のみ、シリーズものは除く)。
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◆「嘘解きレトリック」(フジテレビ系、月曜9時)鈴鹿央士/松本穂香
★★★☆☆
人のうそを聞き分ける能力(松本穂香)と、それを証明する推理力(鈴鹿央士)。まったく異なる才能が出会った1話に若い突破力があった。「その力でたくさん稼げる」と助手に勧誘する貧乏探偵のおおらかさと、ついに居場所を手にしたヒロインの涙に応援しがいがある。大きな事件ではなく、少年の困りごとや資産家令嬢に届けられた謎の手紙といった“日常の謎”テイスト。うその裏にある人間の思いにフォーカスし、超能力ミステリーに陥らない作りに好感がもてる。昭和初期という設定も新鮮。重め路線が続いた月9が久々にほっこりと明るい。
◆「モンスター」(フジテレビ系、月曜10時)趣里/ジェシー/古田新太
★★★★☆
典型的な型破り弁護士ものだが、「高3で司法試験に合格」「ゲーム感覚で案件を攻略」というライトな1話完結で、サクッと見るには最高かも。無敵な新人弁護士の鼻っ柱を趣里がキュートに演じ、常識では行かない場所、常識ではしない取引など、主人公がどんどん動いて1手ずつ駒を進めていく。相手の陣形をどう崩すかの妙味なので、実はセクハラ上司だった、実は整形アイドルだったなどの真相が読めてしまうのも気にならない。常識に縛られてひと皮むけない東大弁護士(ジェシー)がズレたバディとなり、「行ってきます」「どこへ?」のやりとりに推進力がある。
◆「宙わたる教室」(NHK、火曜10時)窪田正孝/小林虎之介/伊東蒼
★★★★★
定時制高校を舞台にした青春ドラマ。JAXAから赴任してきた理科教師(窪田正孝)と、年齢も事情もバラバラな「高校生」たちが科学を通して結ばれ、大きな挑戦を始める。「空はなぜ青いのか」の実験からSF小説のキーワードまで、科学が誰かの人生をロジカルに救っていく理系展開に優しい輝きがある。腕に残る傷跡を、火星探査機オポチュニティが残した轍(わだち)に展開させた3話に泣けた人も多いのでは。定時制高校という夜の世界と、宇宙の静寂がシンクロする物語のたたずまいを窪田正孝が丁寧に立ち上げ、相変わらず理系男子がよくはまる。「火星の夕焼けは青い」は、作品を象徴するパワーフレーズ。
◆「あのクズを殴ってやりたいんだ」(TBS系、火曜10時)奈緒/玉森裕太
★★★☆☆
崖っぷちアラサー女子のほこ美(奈緒)が、自分をだましたクズな男、海里(玉森裕太)を殴るためプロボクサーを目指す。1話は萌え要素の陳列で終わってしまったが、7年前のボクシング事故でクズに転落した海里の時計が再び動き始めた3話から面白くなってきた。ド直球で相手と関わるヒロインの圧がラブコメを引っ張り、女子ボクサーとしての成長と、海里の再生がようやく両輪になってきたところ。テンポの悪さは、登場人物が多すぎるせいかと。メイン不在の脱線が多く、かき回し役も多すぎ。奈緒と玉森のケミがいいだけに、いろいろもったいない。
◆「全領域異常解決室」(フジテレビ系、水曜10時)藤原竜也/広瀬アリス
★★★★★
超常現象専門の捜査機関「全領域異常解決室(全決)」の活躍。神隠し、お稲荷さまのたたりなどのオカルトのわくわく感と、からくりの証明というサイエンスの面白さが両立し、結局人間がいちばん摩訶(まか)不思議という余韻が1話完結で楽しい。井戸を埋める作法、工事の地鎮祭の意味など、日本人の精神性そのものがドラマチックで、ほこらを壊した女子高生の真相を描いた2話はちょっと泣けた。少々無礼なスペシャリスト藤原竜也と、不勉強にもほどがある新参者、広瀬アリスがいいバディ。見終わった後、「ひょっとして」と小さな不思議が残る仕掛けもオカルトとしてうまい。
◆「わたしの宝物」(フジテレビ系、木曜10時)松本若菜/田中圭/深澤辰哉
★★☆☆☆
配信狙いで深夜に不倫ドラマが乱立する中、主要枠まで不倫のスパルタ。夫ではない人の子を妊娠という展開を、カッコウの「托卵(たくらん)」にたとえてみる努力がすごい。手縫いグッズで女子力表現、母性の美化、ボディータッチ男子にキュンなど、男性目線で描かれる女性像はちょっと苦手だった。むしろモラハラ夫に転落した田中圭の苦悩の方が見応えがあり、2話で明かされた事情が主人公より分厚い。1話で謎の不倫をして妊娠、2話で出産というマッハな展開で、この先何が描かれるのか注目。
◆「ライオンの隠れ家」(TBS系、金曜10時)柳楽優弥/坂東龍汰
★★★★☆
市役所勤務の兄(柳楽優弥)と、自閉スペクトラム症の弟(坂東龍汰)の平穏な暮らしに謎の男の子がやってきて、数奇な事件に巻き込まれていく。強キャラを演じることが多い柳楽優弥が今作では普通に生きる人の輝きを実直に表現していて、こんなひたむきな目ヂカラもあるのかと、あらためて俳優力にしみじみ。「違う景色を見てみることにした」という決断に自然と引き込まれる。画力を持った自閉スペクトラム、幼い記憶の中の女性、親の虐待、ミステリーへの急展開など、モチーフの数々にあの韓国ドラマ的なお手本がある感じもするが、主人公が自分の人生をつかんでいく姿を見届けたい。
◆「無能の鷹」(テレビ朝日系、金曜11時15分)菜々緒/塩野瑛久/井浦新
★★★☆☆
デキる人オーラが半端ないのに衝撃的に仕事ができない新入社員のお仕事コメディー。菜々緒のキャスティングはド真ん中。ちんぷんかんぷんで黙っているだけなのに、商談相手が勝手に深読みして契約という流れにキレがある。パソコンも起動できない、コピーもとれないのに謎の自己肯定感があり、触発された同僚たちが手詰まりな人生を勝手に変えていく。ダブルクリックができただけで、クララが立ったかのように拍手の輪ができる正社員ワールド。優秀な非正規雇用の女性たちが置かれている現実を考えるとこのパターンもつらくなってきたので離脱するが、好きな人はぜひ。
◆「放課後カルテ」(日本テレビ系、土曜9時)松下洸平/森川葵
★★★☆☆
学校医として小学校の保健室にやってきた小児科医の活躍。ナルコレプシー、つつが虫病など、病気にまつわるSOSがテーマとはいえ、全体的に暗くて重い。小学校ドラマの金字塔「熱中時代」(78年、主演水谷豊)のDNAを持つ日テレなので、みんな暗い顔をしている令和の小学生描写にもやもやする。主人公も、何やら医療事故系の暗い過去あり。「子どもだから何だ」「心底くだらん」。無愛想というより対人スキルがポンコツというテイストで、最終的に子どもの方が一枚上手だったりするシーンにほっこり。AEDの使い方をここまで丁寧に扱った2話はすごい。
◆「海に眠るダイヤモンド」(TBS系、日曜9時)神木隆之介/斎藤工/杉咲花
★★★★☆
石炭産業で栄えた1955年の軍艦島(端島)で生きる青年と、2018年の東京で生きるホストを神木隆之介が1人2役で演じ、70年の時を超えた人間ドラマを描く。軍艦島をセットで再現し、人間が地下600メートルで石炭を手堀りしていた昭和のすごみが映像として生き生き。1人の老婦人の思いが2つの時代をつないでいく「タイタニック」な設計で、宮本信子が3ヒロイン(杉咲花、土屋太鳳、池田エライザ)の誰なのか、SNSが考察に沸く。脚本野木亜紀子×演出塚原あゆ子の「アンナチュラル」コンビが日曜劇場初登板。まだ1話なので時代の行き来が謎だが、閉塞(へいそく)感をぶち抜く人間ドラマとして楽しみたい。
◆「マイダイアリー」(テレビ朝日系、日曜10時15分)清原果耶/佐野勇斗
★★★★★
社会人になった主人公(清原果耶)がたどっていく、大学時代の仲間との記憶。映画館のポップコーンやトンカツのマヨネーズなど、何げないアイテムをきっかけに、今だから分かるあの時の意味みたいなものが1ページずつ明かされていくダイアリー設計が切なく、今期唯一の正統派青春ストーリーとして貴重な見応え。常に考えごとをしているタイプのヒロインの光と影を清原果耶がみずみずしく演じ、桜の美しさを数式で表現できる理系男子(佐野勇斗)との出会いと別れが極上だった。キラッキラに光度を上げすぎず、青春の輝きをとらえた脚本。仲間5人のどんな“あの日”がめくられていくのか楽しみ。
◆「若草物語-恋する姉妹と恋せぬ私-」(日本テレビ系、日曜10時半)堀田真由/仁村紗和/畑芽育/長濱ねる
★★☆☆☆
「恋愛、結婚だけが女の幸せじゃない」ことを訴えたい脚本家志望(堀田真由)の自己実現。「書きたくないのは、崖っぷちアラサー女子の一発逆転胸キュンストーリー」。今まさにそれをやっているTBS火曜枠を思い切り挑発していて笑った。ドラマ界にはびこる「古い価値観」や「古典の型」を一刀両断するせりふは面白いけれど、「若草物語」という古典中の古典に乗っかっている時点で説得力がないような。TBSが3姉妹(9ボーダー)をやったばかりで、末っ子の畑芽育もかぶる。「崖っぷちアラサー女子」も「なかよし○姉妹」も、型のはまり方は大差ない。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)