「大人が見られる映画が、映画館から減った」という声が、ますますささやかれている。老若男女が楽しめる多様な作品が上映されてしかるべきだが、例えば時代劇や、中年から上の世代の主人公を軸に濃密な人間関係を描く人間ドラマは、公開されてもヒットしなければ早期に終映に追い込まれ、分かりやすいエンタメ作品ばかりがスクリーンに並ぶ。そんな現状に一石を投じるであろう1本だ。

“花の82年組”と呼ばれ、芸能界で一時代を築いた本木雅弘と小泉今日子が32年ぶりの共演で、かつての恋人同士として久しぶりに再会する男女を演じた。芸能界の最前線で同期として43年、互いの存在に刺激を受けて走り続けてきた2人の人生と、役どころと物語は重なって見える。「設定と同じように空白の時間があることが、他の関係性では演じられないものを絶対、生み出すじゃないですか?」。本木の言葉通り、再会のシーンは、人生と物語とが虚実ない交ぜとなり、出会った瞬間の2人の全身から、喜怒哀楽などという言葉では表現などできない情があふれ出す。

倉本聰氏は、鎌倉時代後期の作とされた、つぼが現代に制作されたことが発覚し、重要文化財から降ろされた1960年(昭35)の「永仁の壺事件」などをベースに脚本を紡いだ。そこに込めた「美とは何なのか?」という問いかけがまぶされた上質なミステリーを、本木、小泉をはじめ中井貴一、石坂浩二、仲村トオル、清水美砂ら名優がもり立てる。大人の男女に、映画館で見て欲しい…。【村上幸将】

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