東京・歌舞伎座で上演中の第一部「あらしのよるに」で澤村國矢あらため二代目澤村精四郎(きよしろう、46)の襲名披露口上が行われている。

精四郎は9歳から子役として映像作品などに出演し、10歳の時に歌舞伎座で初舞台を踏んだ。その後、「河内山」で二代目澤村藤十郎が演じた松平出雲守の小姓役で出演した時に藤十郎から「歌舞伎役者にならないか」と誘いを受けたのをきっかけに、平成7年に藤十郎のもとに入門し、澤村國矢を名乗った。

しかし、入門から3年後に師匠の藤十郎が病気で倒れた。師匠という後ろ盾が舞台から遠ざかる中、國矢には周囲から温かい手が差し伸ばされ、舞台に立ち続けた。苦難の中で懸命に努力する姿に、中村獅童が注目。バーチャルアイドル初音ミクも共演した超歌舞伎「今昔饗宴千本桜」に抜てきし、京都南座のリミテッドバージョンでは初めての主演にも起用した。獅童も十八代目中村勘三郎に引き上げられて活躍できるようになった経験があり、松竹の上層部に國矢の幹部昇進を進言した。師匠の藤十郎もその話に大喜びし、芸養子にした上で、自らが若い頃に名乗っていた「精四郎」を襲名させることが決まった。

公演途中で、劇中で演じている狼役の姿の獅童、精四郎が並んで「口上」となった。獅童が「役者人生を共に歩んでいければと思っております」とあいさつすれば、精四郎も「門閥外から歌舞伎界に飛び込んだ者にとりまして、このような場を設けていただき幸せでございます」と感謝。会場からの大きな拍手に涙を流す精四郎に「あなた、何を泣いているでやんすか」と突っ込んだ獅童も涙声だった。

幹部となった精四郎は来年1月の歌舞伎座「初春歌舞伎」で昼の部「対面」で八幡三郎、「鉄輪」では海老で出演する。門閥外の歌舞伎俳優は、国立劇場の歌舞伎俳優研修所出身者が多いが、実は精四郎は研修所を2カ月で辞めている。そんな精四郎が、今や門閥外の若手歌舞伎俳優の目標になっている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)