「お前が前に行かなくてどうするんだ!」。川崎FのMF大島僚太(23)は、主将の中村から激しいけんまくで一喝された。高い位置をとって相手にとって怖い選手になれ-。期待するが故の叱咤(しった)。大島は中村をにらみつけると、直後にペナルティーエリア内へ仕掛けて強烈な同点弾を決めた。5月4日の仙台戦のことだった。

 この一戦から変化が起きる。それまでの7試合と、以降の7試合を比較すると敵陣ペナルティーエリア内でのプレーが倍増し、攻撃エリアでのプレー数も1・5倍に増えた(データスタジアム調べ)。中村は「同じ選手とは思えないぐらいすごい。あいつの成長が、今のうちの成長につながっている」とたたえる。

 静岡学園高の恩師川口修監督は6年前の姿とだぶらせた。10年夏。全国総体県予選から「うまいけど横や後ろへのパスばかりで積極性がない。10番は任せられない」と感じていた。左足甲のけがも完治した大島から出場をアピールされたが、最後まで起用しなかった。秋の全日本ユースでの奮起に期待する荒療治だった。川口監督は「相当悔しかったと思う。そこから彼が急激に輝き始めた」。

 全日本ユースで再び背番号10を託された大島は、Jユース相手に積極的なプレーをみせた。広島ユースのDF2人のスライディングを軽くかわす技術も発揮。視察した川崎Fの向島スカウトが「こんな選手いた? すぐJでできる」と、川口監督のもとに飛んできて、プロの道が開けた。おっとりした顔とは裏腹な負けん気を胸に成長してきた。五輪でも世界を相手に輝いてみせる。【岩田千代巳】

 ◆大島僚太(おおしま・りょうた)1993年(平5)1月23日、静岡市清水区(旧清水市)生まれ。小学1年から船越SSSでサッカーを始め、静岡学園中-静岡学園高。3年時に全日本ユース4強。大学に進学してサッカーをやめるつもりだったが、練習参加を経て11年に川崎Fに加入。J1リーグ通算112試合4得点。今年6月のキリン杯でA代表初招集。168センチ、64キロ。血液型AB。