スポーツで麻薬や銃社会から子どもを救う-。リオデジャネイロ市にあるファベーラ(貧民街)の1つ「シャクリーナ」に、バドミントンを通じて闇社会への転落を防ぐプロジェクトがある。18歳まで11年間、児童養護施設で育ったセバスチャン・オリベイラさん(50)が「同じ人生を歩ませたくない」と98年から始めたボランティア活動だ。
ギャングの巣窟、飛び交う銃声、はびこるドラッグ。「シャクリーナ」はそんな無秩序なファベーラのイメージとは違い、平和が保たれていた。
飛び交うのは子どもたちの楽しそうな声とシャトル。青い体育館にある4面のバドミントンコートを自由に跳び回る。競技を始めたばかりの子から、南米王者の小学生まで一緒に、ラケットを振り回した。
体育館の隣には塾もある。国語(ポルトガル語)、英語、数学、料理、音楽などを地元の大人が無料で教える。昼間の学校が終わっても、夕方からまた学校のようだが、楽しくてしょうがない。夜までみっちり運動と勉強にいそしんで、暗くなったら「また明日」。
「ミラトゥスプロジェクト」には280人もの子どもが参加。約30人は、麻薬の売人が入り乱れる近隣のファベーラから通う。オリベイラさんは目を背けたい現実を口にした。
「どこのファベーラにも悪人はいて、若者を悪の道に誘う。7、8歳の子にご飯をあげながらドラッグの運び屋を頼み、そのうち売るようになり、大きくなって銃を持つ。その道を行き続ければ麻薬をやり続けるか、死んでしまう」
強い信念がある。「私はそうなる前の子どもを早くつかんで、このプロジェクトに入れたいんだ」。全ては自分の経験からだった。
お手伝いさんとして母が住み込んでいた家が、子どもの帯同を拒んだことがきっかけで、オリベイラさんは7歳から18歳まで児童養護施設で育った。環境は悪く、病死したり、ギャングになる仲間もいた。
母を恨んではいない。12歳の頃、児童施設の長期休暇の際、現実を初めて見た。母は、嫌だったお手伝いさんを辞めた後「ゴミ山」で使える物を拾い、それを売って生活していた。「食料もハゲタカとの競争。捨てられた魚の頭やイモを拾って食べていた」。
オリベイラさんは施設職員の熱心な指導もあり、道を外れず就職。今は国立学校のバドミントン部のコーディネーターとして働いている。しかし、「自分も一歩間違えたら悪人になっていた。人の支えがなければ今はなかった。だから今度は僕が恩返しをしたいんだ」と全ての子を「自分の子」と言い、笑顔で抱きしめ愛を注ぐ。
靴が買えないはだしの少年少女も、笑顔でコートを駆け回る。一方で、平和が崩れゆく「危うさ」をはらんでいることも知っている。