- 「sleepion」を手に笑顔のティ・アール・エイ株式会社東享代表取締役(撮影・松本航)
今日からリオデジャネイロ五輪の新企画「Rio eye's」をスタート! 大会閉幕まで、五輪に関わるさまざまな話題を深掘りしていく。第1回は時差対策。ブラジルと日本の時差は12時間、メダル獲得への大敵となってくる。そんな中、競泳男子平泳ぎの小関也朱篤(24=ミキハウス)ら日体大を拠点とする6選手は、ある秘密兵器を導入していた。
部屋の明かりを消すと、そこはリオのにぎわいと正反対の世界だ。月をイメージし、ろうそくのように揺らぐ光。耳からは母親の胎内のリズムに合わせた安らぎの音。ラベンダーやひのきの香りを体に取り込むと後はぐっすり眠るだけ-。
今春、ティ・アール・エイ社(本社・大阪市)が発売した睡眠導入器「スリーピオン」。リラックス効果のある「光」「音」「香」の3要素が同時に備わった業界初の秘密兵器が、メダルを狙う選手たちをサポートしている。7月31日にリオ入りした女子個人メドレーの清水咲子は素直に驚きを語った。
清水 ストレスがたまったときにやると、めっちゃ眠れます。アロマのいい匂い。バッチリ(な状態)で本番を迎えたいです!
日本との時差は12時間。昼夜正反対の時差は日本選手の敵だった。さらに競泳は決勝が午後10時以降(現地時間)と、日本ではあり得ない環境が待ち受ける。清水、小関ら日体大拠点の6選手を指導する日本代表の藤森善弘コーチも「1週間で時差ぼけを取れるという話もあるが、脳をリラックスさせ、腸に栄養を吸収させるには6週間ぐらいかかる」と長期的な準備を見据え試行錯誤していた。
スリーピオンは同社が、睡眠を30年以上研究する大阪府立大の清水教永名誉教授と共同開発した。清水教授の研究により「母親の胎内音が最も睡眠を促す」と判明。1分間に18回程度の呼吸、血液の流れる音、子宮内への反響のデータを元に専門家へ音楽作りを依頼した。数十種類の試作品を同社の東社長らが体感し、サウンドが完成。4段階の睡眠レベルで「深睡眠期」となるステージ4は、自発的な眠りでのみ達する。睡眠薬などに頼らず自分で眠る形は、アスリートにも絶好のスタイルだった。
藤森コーチは教え子を介し、5月に東社長と面会。試作品で効果を実感し、選手分を譲り受けた。6月の日本出発後は、1カ月以上の米国合宿を経てリオ入り。国をまたぐ環境の変化には、耳の中から脳へ太陽代わりの光を与えるフィンランド・バルケー社の「バルケー2」が効いた。ドーム状で睡眠時に頭部を覆う遮光枕も併用。外の明るさを問わず、リオの舞台に合わせて睡眠のタイミングを調整することに成功。スリーピオンを加えた「三種の神器」は6人を支えた。
メダルが期待される小関は堂々と「すごく効きます。時差対策に問題はない」。最先端技術と、緻密な準備で進むメダルロード。最終到達点は実力発揮のレース以外にない。【松本航】
<主な時差ぼけ対策>
◆60年ローマ五輪レスリング代表 国内合宿中から真夜中に練習。日本協会元会長の故八田一朗氏が発案し、おりの前でライオンとにらめっこしたことも。
◆08年北京五輪女子バレーボール 北京入り後、時差1時間にもかかわらず練習を午後9時開始に設定。午後10時の試合に備え、早朝の走り込みも「やめさせる」(柳本監督)と禁止令。
◆08年サッカークラブW杯マンチェスターU 日本へ移動する際、機内の室温を25度に保ち「全裸で就寝」指令。着衣による摩擦を防止し、睡眠環境を改善するため。
◆16年リオ五輪男子サッカー代表 ブラジルに向けて出国する前夜、手倉森監督が「寝るな」と指示を送り、複数の選手が徹夜。自身も寝ずに羽田空港に現れ、移動中の機内で睡眠。