正式な新オーナー加入が決まったイングランドの古豪マンチェスターUではありますが、正式発表後の株価は15ドル前後に急落しました。20~22ドル前後で推移していたことから考えると、2割近くの落ち込みです。要因としては、年末、早々に欧州チャンピオンズリーグ(CL)敗退が決定し、苦境に立たされました。年明けには成績後退から下方修正がなされるほどの状況。新体制となったことから増資が見込まれ、スタジアム改築を含めてこの夏の市場における大きな改革が期待されます。チームの状況としてはポジティブに改善される要素が強いとみますが、株価は期待に反して下落。要因はどこにあるのか経済的な視点から見てみたいと思います。
売上 *年度毎(6月決算)
2019年 6億2719万ドル 2020年 5億904万ドル 2021年 4億9412万ドル
2022年 5億8320万ドル 2023年 6億4840万ドル
売り上げをみると、コロナ前に戻ったという印象になります。むしろコロナ前の売り上げを超えており、完全に市場は戻ったと判断していいと思います。
続いて営業利益を見てみましょう。
2019年 4999万ドル 2020年 522万ドル 2021年 -3693万ドル
2022年 -8783万ドル 2023年 -1118万ドル
営業利益ベースでみますと、2021年からマイナスに陥り、2022年シーズンは大きくマイナスを計上。成績低迷による分配金の変動と、選手獲得におけるコスト増と思われます。ただ回復傾向にはあるように見えます。
次に経常利益です。
2019年 2748万ドル 2020年 -2082万ドル 2021年 -2403万ドル
2022年-1億4962万ドル 2023年 -3257万ドル
純利益
2019年 1888万ドル 2020年 -2323万ドル 2021年 -9222万ドル
2022年 -1億1551万ドル 2023年 -2868万ドル
経常利益・純利益を見ても、営業利益と連動する形で2022年度に落ち込みました。この分をどのように取り戻して行くのかというのはありますが、なんせチーム成績による部分が大きく影響していると考えられるため(CL上位進出がなく分配金を受け取ることができていない)、選手を含めて現場のテコ入れが急ピッチで必要な状況であることに間違いはありません。
企業がどれだけ効率的に利益をあげているか判断する指標として、ROA(総資産利益率:総資産に対する利益の割合)、 ROE(自己資本利益率:自己資本に対する利益の割合) がありますが、これはそれぞれ数字が高いほど収益性が高いと判断される指標になります。(一般的にROAは5%が超えていると優良企業、ROEは10〜20%程度で優良企業と言われ、負債が大きい企業の場合ROAとROEとの差が大きくなります。)こちらの数字を見てみてもマイナス先行で、効率的なビジネスがされていないと判断される数字になっているように見えます。
2021年6月期 ROA -7.32/ ROE -29.57 2022年6月期 ROA -8.93 / ROE -57.75
2023年6月期 ROA -2.18 / ROE -24.78
フリーキャッシュフローも 2023年6月期 (2023/6/30) -4439万ドル(1ドル160円計算で約66億6千万円)と大きくマイナスに計上されており、非常に状況としてはよろしくないことが感じ取れてしまいます。
スポーツビジネスの難しいところではありますが、これがいつ好転するのかは不透明です。また、条件が整ったように見えてもピッチ上の結果がついてこなければいけないわけで、CLの一番美味しいビジネスが手にするができないということになると、やはりポジティブな見方にはなりません。
この経済的な状況に対してオーナー組織が替わったことがどのように影響するのか、そしてチーム成績がどの様に好転して行くのか、この夏市場でのマンチェスターUの動きに注目です。
【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)