サッカー日本代表のワールドカップ(W杯)北中米大会アジア最終予選が9月から始まった。
9月5日に埼玉スタジアムで中国に7-0、続く10日にアウェーでバーレーンに5-0と圧勝。2試合合計12得点は、前回最終予選の10試合で挙げた合計得点と同じだった。
■敵将が口にした「ワールドクラス」
3-4-2-1という超攻撃的な布陣がはまった。守備のタスクと同時に、ゴール付近まで走り得点に絡む攻撃力が求めるウイングバックを配置したのが特徴的だ。ここに三笘薫、堂安律、伊東純也、中村敬斗らが入り、両サイドから崩しにかかる。
そこへシャドーの久保建英、南野拓実、鎌田大地が高い技術をもって絡んでいく。スピードが持ち味の前田大然、浅野拓磨もいる。1トップの上田綺世、小川航基も充実している。
攻撃陣を支える遠藤航、守田英正、田中碧らボランチ陣の安定は大きい。さらに最終ラインに立った谷口彰悟、板倉滉、町田浩樹、そして守護神として貫禄が出てきた鈴木彩艶…。2試合を現地で取材したが、非の打ちどこらがないすばらしいサッカーを展開した。
敵将が口にした「アジアのレベルを超えてワールドクラス」という声を、誇らしく聞いた。
そしてJリーグ取材に戻る中で、あるテーマが頭に浮かんだ。
今季J2から昇格し、躍進が目立つ2クラブ。現在1位のFC町田ゼルビアの黒田剛監督、同6位の東京ヴェルディの城福浩監督は、現日本代表をどう見ているのか?
リーグ戦が佳境を迎え、率いるクラブのことに没頭している。ましてや代表チームとなれば、軽々しく口にしづらいところもあると思いつつ、Jリーグを代表する名将たちにたずねた。
2試合で12得点を挙げて大勝した日本代表をどう見ましたか?
■ドン引きを崩し切るクオリティー
まずは町田の黒田監督の見解はこうだった。
「例年以上にすごく駒がそろっているなという印象があります。あれだけドン引きされても崩し切るだけのクオリティーを持っている。ベンチに座っている選手も本当に豪華だし。海外でやってきた選手が多いから、国際戦の戦い方というのも熟知している選手が増えたということ。それは日本サッカーが築いてきた財産でもあるし、やっぱりここ数年に見ないだけのものがある。
今なら本当に世界の強豪と戦っても本当にトントンでやるか、むしろ優位に戦えるかっていうところが、かなり見えてきたかなっていうふうに思います。
森保監督もあのチームであの選手たちを率いてマネジメントしながらやっている。すごい気苦労も多いと思うけど、日本代表が頑張ってくれていることは我々にとっても励みになるので本当に頑張ってほしいと思います」
そして日本代表監督に興味はありますか? との問いに対して、笑顔でこう返した。
「全然ない。代表チームは難しい。(選手たちの)日常を知らないから。町田が楽しいよね、いいところだよ、ここは」
世界基準の選手がそろい、そこを束ねる森保監督のマネジメント力を、同じ監督業という観点から実直に口にした。結果を出している黒田監督が言葉にするからこそのリアリティーがあった。
■模倣しながら独自を作れる国民性
後日、城福監督にも同じことを尋ねた。
日本代表をどう見ましたか?
日頃から日本サッカーの発展という大きなビジョンを持った中で、Jリーグの監督業を務めている。
冒頭に「あんまり偉そうなことを言うつもりはないですけど、それを棚に置いて言わせてもらいますと」。こう言って切り出した。
「日本というのは僕の知っている限り、サッカーだけでなくいろんな方面で先進的なものをしっかり謙虚に受け止めて、学びながら、時には模倣しながら日本独自のものを作っていく。おそらくこれはサッカー界だけの話じゃない。日本国民特有の優れたものがあるんだと思います。僕はそれはサッカーにも当てはまっていて、我々はサッカー後進国だったと思うんですけど、そこから先進国に何かを学んで、学んだ上で独自性をどう出していくかというところは、そこはサッカー界がすごく工夫したところだと思います。
そこを論議するために、まずコーチングエデュケーションですよね。そこのところにすごく力を入れた。自分たちが学んだ上で、日本サッカーがどうあるべきかっていうの論理が、非常に高いレベルで早いうちからできていたっというのは僕は見逃せないと思います。いろんな選手が出てくるのを待っていたわけじゃなくて。
(日本サッカーは)30年、それに取り組んできた。僕が知っている限り、それは25年前くらいからですけど、本格的に取り組んだことが、実はそれが遠回りでなく近道だったのかなと。トップから学んで、日本流にアレンジした時に、日本人のストロングを考えた時に、彼らはどういうふうに対等以上に戦っていくかというのを、みんなが考えていると思います。
1つ具体的に言えば、僕はいろんなところで取り上げられている、ちょっと誤解を招いていますけど、アクチュアルタイム(※ボールが外に出てからスローインやゴールキック、コーナーキックで試合が再開されたり、ファウルの判定からFKが蹴られるまでなどの時間を除き、実際にプレーが動いている時間のこと)というのは、僕は日本サッカーにとって非常に大きなキーワードで、それを僕は去年からずっと言っていますけど。アクチュアルタイムが長ければ長いほど、日本の国民性、日本の持っている精神性なものと、肉体的なものの持久力を考えたら、これはプラスになるんですよ。
なので90分のうち、何分プレーするJリーグなのかというところは僕は突き詰めていって、そこはローカルルールがあってしかるべきだし、中断して寸断しているサッカーを見にくるのでなくて、ずっとサッカーをやっている、そういうことを好むようなファン、サポーターの方々がいて、そこを志向するような。ただ、サッカーの志向そのものはいろんなものがあっていいと思います。
ただアクチュアルタイムに関しては、日本が一番得意とするところだし、そこに関しては、そこが長ければ長いほど日本のペースだというふうに思われるものを突き詰めていく。今の僕の印象、感覚ではそこをもっと伸ばしていっていいんじゃないかというふうには思います」
日本代表がどういう選手で、どういうサッカーをしているかということは語らず、そこに至った日本サッカーの背景についてのものだった。そして、さらに発展していくためには何が必要か、大きな視点からの提言。興味深い回答だった。
■日本が築くサッカーファミリー
誤解を招かないためJクラブ監督が代表チームへの見解は控えることが多いと思うが、自身の言葉をもって語ってくれた黒田監督、城福監督にはあらためて感謝したい。
代表チームとは、文字どおりその国のサッカーのプラミッドの頂点にある。ただ、市井の少年サッカーチームから始まり、各世代のさまざまな活動や取り組み、考え方というものが同じ方向性を持つことで強く、大きなものへとなっていく。
Jリーグ誕生に端を発し、日本が築き上げてきたッカーファミリーというものが、日本代表を世界の高みへと押し上げている。日本代表を見るにつけ、そう実感している。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)