クールな敗者 それもまたよし
転倒、失敗、失格、考えられないことが次々と起きるのが、冬季五輪。不安定な雪や氷の上、風や温度など自然とも戦わなければならない。微妙な採点、判定もある。波乱が起こるのは当然で、絶対的優勝候補がメダルにさえ届かないことも珍しくない。4年間の苦労が水の泡になる選手にとっては不条理だが、見ている分には楽しい。スリリングで目が離せない。単純に興奮できる。16日に行われた女子スノーボードクロスも、期待通りだった。
6人が一斉に滑るから、選手同士の接触でクラッシュも起きやすい。全員が無事に降りてくることの方が珍しいぐらいだ。06年トリノ大会から採用され、人気も高い。何が起こるか分からないが、競技としては分かりやすい。採点などは関係なく、1番に滑り降りてきた選手が勝つからだ。
注目したのはリンゼイ・ジャコベリス(米国)。先月には世界最高峰のXゲームで9回目の優勝、世界選手権も3回制している。100万ドル(約1億円)を稼ぐスーパースターは、優勝候補だった。しかし、同時に「ジャコベリスは五輪の金メダルに縁がない」とも言われた。準決勝でトップを滑りながら、まさかの転倒。3大会連続で金メダルを逃し「運、不運はどうしようもない」というのがやっとだった。
20歳で初出場したトリノ大会の決勝(4人)。ライバルを寄せ付けずに2人の転倒もあって金メダルへ独走となった。初代女王を確信して、最後から2つ目のジャンプで「グラブトリック」。バランスを崩して転倒し、3秒も遅れていたフリーデンに抜かれた。
ただ勝つだけでなく「魅せて、勝つ」ためのエアだった。本人は後に「必要なかった」と反省したが、だからこそ魅力的だった。勝ち方にもこだわるのが、プロらしい。速いだけでなく、どれだけ観客を喜ばせるか。五輪の舞台で考えられるのは(無意識でそれができるのは)、普段から観客を意識している人気スポーツのプロならではだ。
今回、女子スノーボードクロスで優勝したサムコバ(チェコ)は、口ひげがトレードマークだった。「験かつぎ」としているが、それだけだろうか。これも、観客やテレビの前のファンを楽しませたいからではないか。競技そのものが「魅せる」ことを重視するルールだから、選手も周囲へのアピールにこだわる。
「より速く、より高く、より強く」は、よく知られた五輪の標語。しかし、今はそれだけではない。「より美しく」を求める競技もあるし、今大会では「よりクールに」も忘れてはならない。「HOT COOL YOURS」は、ソチ五輪のテーマだが、COOLには「かっこいい」の意味もある。テレビで五輪を見る多くのファンは「かっこいい」ものを見たがる。速く、高く、強い勝者も素晴らしいが、美しく、クールな敗者にも魅力はある。
日刊スポーツ新聞社
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