米国最大の都市ニューヨークで6月7日から行われたドジャース-ヤンキース戦は、連日の大盛り上がりだった。ドジャース大谷翔平投手(29)やヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(32)ら、MVP選手が両軍合わせて5人そろう豪華スターの集結。3連戦はApple、FOX、ESPNの順に全米中継され、球場は3戦連続でチケット完売の満員となった。
先発ローテーションの順番の関係で出場機会はなかったが、以前から話を聞きたかった選手がいた。今季、先発で6勝2敗、防御率2・82の成績を挙げている右腕マーカス・ストローマン投手(33)。170センチと小柄で、メジャーで投手としては最も背が低い。球団の選手紹介のページに、ストローマンが「HDMH」という衣類ブランドを立ち上げていると記述されていた。Height Doesn't Measure Heart(背の高さで心は測れない)を掲げ、その頭文字をとったという。
「真実の、僕が作った商標。僕はメジャーで最も小さな投手だけど、背の高さは関係ない。多くの小柄なアスリートが主張したいことだと思うし、自分自身でも認識できるように」
この信条は、自身の経験から基づくものだった。「僕は大学の時に二塁手と遊撃手、あとは投手もやっていたんだけど、その後、ピッチャーに専念した。若い頃は、僕が小さすぎると伝えてくる人もいた。ただ、逆に(その偏見を)上回るために、よりハングリーになった。むしろ、それをエネルギーに、モチベーションにしていた。それが、僕の原点でもある」。
投手としての能力に背の高さは関係ない。「多くの人が、僕は先発投手で出来るのだろうかと思っていたと思う。だから、本当に一生懸命練習して(出来ることを)証明し続けるしかなかった」。有言実行で、実績を残した。メジャー10年間で83勝78敗、防御率3・60(6月12日時点)。ブルージェイズ、メッツ、カブス、ヤンキースと強豪を渡り歩いた。偏見を破るのに、必要なこととは-。
「ただただ、自信を持つこと。自分がどういう人間なのか。周囲に惑わされてはいけない。世の中には批判的な見方が多くあるから、難しいことだけどね。そういう雑音をかき消さないといけないし、自分の気持ちを追いかけて、気力を振り絞り、情熱を注いでいかないといけない。それができればうまくいくと思う」
大谷もかつては懐疑的な目を向けられながら、メジャーで二刀流は可能だと証明した。現在は右肘のリハビリ中だが、今後もできるだけ長く、投打でプレーするために奮闘している。まず情熱がなければ、成し遂げられることではない。ストローマンの話を聞きながら、共通点を感じた。
個人的な経験で恐縮だが、学生の頃、プロ野球選手になりたかった夢を「背の低さと小柄な体」で諦めてしまった。今思えば、勝手に理由付けをして、気持ちが弱かった。ストローマンのプレーをもっと早く見たかった、彼の考え方をもっと早く知りたかったとの思いも頭をよぎったが、これから、1人でも多くの野球少年が体格に関係なく夢を追い続けてくれるなら…。むしろそれが本望だ。【MLB担当=斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)