プロ野球2024.11.06 06:00

平井勉

◆工藤公康(くどう・きみやす)1963年(昭38)5月5日、愛知県生まれ。名古屋電気高(現愛工大名電)時代には夏の甲子園で長崎西相手にノーヒットノーランを達成するなどベスト4へ進出。1981年のドラフト会議で西武から6位指名を受けて入団。西武からFAでダイエーへ移籍し、その後、巨人、横浜、西武と渡り歩いた。実働29年で現役通算224勝を挙げ、リーグ優勝14度、日本一11度の“優勝請負人"。MVP2度、最優秀防御率4度など数々のタイトルを獲得した。ソフトバンク時代の監督7年間では、5度の日本一に輝き、投手起用など、すぐれた采配で勝利へ導き「短期決戦の鬼」と称された。監督通算勝利は978試合で558勝、378敗42分け。趣味はゴルフで、球界ではトップクラスの腕前だった。家族は雅子夫人と2男、3女。

シャワーも浴びずにジャージー姿で

工藤さんは、講演活動や野球教室など、知り合ってお世話になった方々に、御礼の手紙を出すことがある。

仕事相手の関係者がどんなに年下でも腰が低く、必ず敬語で話す。約束の時間は厳守で、道路が混むような状況では電車に乗る。

それも新幹線や特急だけではなく、指定席がない在来線や地下鉄にも普通に乗るから、気づいたお客さんが「まさか」という表情を浮かべる場面が、数え切れないほどあった。

野球教室の帰りなどは、時間ぎりぎりまで指導するので、着替える時間もなく、シャワーも浴びずにジャージー姿で乗車することも。

基本的に、サインや写真撮影ができる場所では断らず、講演会先でも積まれた色紙に、嫌な顔ひとつ見せずに書いていた。

謙虚であり続ける姿勢を生んだのは、血気盛んな時代、野球をやめないといけないかもしれない、どん底を味わい、そこから改心し、失敗を糧にしている経験があるからだ。

現役時代は、流行語になった「新人類」の走り。「従来とは異なった感性や価値観、行動規範を持っている」と言えば聞こえは良かったが、当時、行動が自由で、簡単にいえば怖いものなし。

昭和のバブル時代、工藤さんだけではないが、銀座の高級クラブでお酒を飲むが一流のステータスの時代だった。

現在はビールか焼酎が中心で、すぐ顔が赤くなる。酒豪というタイプでもなく、晩酌もしない。あの時代は、誘われるまま、実は楽しい雰囲気の中、無理して飲んでいたのかもしれない。

26歳のころ、不摂生で体が悲鳴をあげた。1989年は、わずか4勝と大不振。それまで3年間連続の2ケタ勝利で36勝の左腕が、突然のスランプに陥った。

｢頭をガーンと殴られた気分｣

オフの健康診断では肝臓の数値が異常を示し、担当医からは「このままの生活をしていたら、あなた死ぬよ」と衝撃の忠告をされた。周囲からは「もう工藤は終わったな」とやゆされ、絶頂期からどん底へ突き落とされた。

工藤さん肝臓が悪いから体が疲れやすくなって、いいパフォーマンスができなくなっていました。さすがにショックで落ち込みましたね。ウソでしょ、と頭をガーンと殴られた気分でした。

これから、どうしようかと考えました。このままの成績だったらクビになると。

まずもって野球を続けられなくなると…。

追い詰められてはじめて、自分自身を見つめ直すことができました。自分の甘さというか、自覚のなさを痛感しました。

結果も出していたから完全になめていました。

このまま終わりたくない、終われないと思った。

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