フィギュア2024.09.09 11:00

竹本穂乃加

◆木科雄登（きしな・ゆうと）　2001年（平13）10月15日、岡山・浅口市生まれ。5歳でフィギュアスケートの短期教室に参加したことをきっかけに競技を開始。全日本選手権8年連続出場中。今春、関大社会安全学部を卒業し、現在は同大大学院1年生。

これまでの競技生活などを、振り返って語ってくれた木科雄登（撮影・加藤哉）

「なんか不思議」　野山を駆けまわる少年が氷上へ

大阪・高槻市内にある関大のたかつきアイスアリーナ。夏休み中だからだろうか。敷地内はしんとしていて、アリーナ横に広がるグラウンドで自主練習をする野球部員1人だけが、景色を動かしていた。スケートリンクで練習しているのも1人だけ。扉を挟んだ向こうから、かすかに曲かけの音楽が漏れ聞こえる中、普段京都・宇治で練習しているという木科は「久しぶりに来ました。最近はもうほぼ部員の指導くらいでしか来ないので」と言いながら、リンク横の部屋の中央にある椅子に腰掛けた。

インタビューで、これまでの競技生活など振り返って語ってくれた木科雄登（撮影・加藤哉）

今年3月に関大を卒業し、現在は同大学の大学院1年生。修士課程修了を区切りに、現役生活を「あと2年」と心に決めている22歳は、はつらつとした様子で自身の過去をたどり始めた。

遡ること23年。木科は、2001年（平13）10月15日、岡山県南西部に位置する浅口市に生を受けた。両親と、4学年上の姉との4人家族。瀬戸内海に隣接し、日本最大の天文台を持つ“天文のまち”としても知られる自然豊かな土地で、「田舎の子供」らしい幼少期を送った。

「田舎っていう言葉がぴったりなまちで。緑がたくさんあって、自然いっぱいの場所で育ちました。だから、小さいころは本当に、野山を駆け回るじゃないですけど、近くの山の中に入って遊んだり、虫を取ったり、高いところに登ったりして自由に遊んでいました」

自然が身近にある暮らし。そんな活発な少年がフィギュアスケートと出合ったのは、幼稚園のころだった。

通っている体操教室が企画するスケート教室に参加したときのこと。目の前で自由自在に氷上を舞い、音を立ててくるくる回るその姿に釘付けになった。

「僕もこれやりたい」

当時は、水泳、体操、習字、英語、学習塾など複数の習い事を掛け持ちし、幼稚園生ながらに「僕って忙しいな」と感じる日々を過ごしていた。毎日の稽古で、同年代の中でも飛び抜けて多くの分野に触れてきていた木科。それでも、スケートには、特別興味をひかれた。

無良崇人（右）の横に立ち、笑顔の木科（本人提供）

短期教室に参加してスケートの楽しさを知った木科は、すぐに地元のスケート教室に入所。野山を駆け回るように、今度は氷の上を駆けた。陸とは異なるその感覚は、やはりなんとも心地いい。足場の悪い道を走ったり、高いところによじ登ったりしていたわんぱくな少年には少しの恐怖心も湧かず、ただただその感覚を楽しんだ。

「スケート教室はスケートの楽しさを教えてくれる場所だと思っています」。通うたびにその魅力に魅了され、コーチの無良隆志の元で週1回から練習を始めてから、1年もたたないうちに週6日リンクに通う生活に。スケートを軸にやっていくことを両親に宣言してからは練習頻度が高くなり、複数掛け持ちしていた習い事もほとんどやめて、完全にフィギュアスケート中心の生活になっていった。

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