[ 2014年2月25日9時17分
紙面から ]ビジネスクラスで欧州に出発した、左から竹内、葛西、清水、渡瀬(撮影・下田雄一)
レジェンドが、新たな伝説作りに旅立った。ノルディックスキー・ジャンプ男子のソチ五輪メダリスト葛西紀明(41=土屋ホーム)が24日、今季の残りW杯などに参戦するため、全日本チームとともに成田空港を出発した。同五輪のラージヒルで悲願の個人戦メダル(銀)、団体戦で銅メダルを獲得したが、日本人男子でまだ誰もいない「W杯総合優勝を取って感動を与えたい」と勇躍、欧州に乗り込む。
レジェンドの動きに合わせ、出発ロビーは報道陣と一般搭乗客のうねりで騒然となった。狂騒曲は、あの涙の団体戦から1週間たっても鳴りやまない。そんな中、「メダル!」というファンの声が耳に飛び込む。葛西は申し訳なさそうに答えた。「すいません、今日は持ってきてないので」。約1カ月にわたる欧州転戦中に紛失しては一大事。20日の成田到着時に「喜びを分かち合いたい」とファンに触ってもらったメダルは「札幌の自宅に置いてきました」と打ち明けた。
わずか2日間の札幌滞在中は、公私合わせた祝勝会などで分刻みのスケジュール。とりわけ「時間がない中、札幌まで足を運んでくれた。『泣かしてもらったよ』『感動した』と。(入院中の)妹には見せられなかったけど、やっぱり家族の言葉はうれしかった」と姉紀子さんとの会話が、ピンと張り詰めた葛西の心を解かしてくれた。
その心の中では、次の戦いが始まっている。「五輪の金メダル以上に難しいといわれるW杯総合優勝」が次なるターゲット。昨季、女子の高梨沙羅が日本人初の快挙を遂げたが、男子では船木和喜の2位(97-98季)が最高。3位が2度ある葛西は「五輪のように豪快かつ、きれいなジャンプでもう少し優勝を重ねることが出来れば可能」と勲章への思いを込めた。
最初の総合3位が、今も発奮材料だ。92-93季は最終戦で逆転総合Vのチャンスがあったが、27位と失速して逃した。「あれは大失敗。あのリベンジをしたい気持ちがあるから、今の自分がある」と22点差で逃した大魚を、今もモチベーションにする。「ポンと優勝できれば追いつく。最後の方まで、もつれると思う」と残り8戦での大逆転Vをもくろむ。
日本滞在中は欧州時間に合わせ「明け方の4、5時に寝るようにした。すぐW杯に入るためです」と、準備にぬかりはない。団体戦でのメダル獲得後、親交のある同じ年のレーシングドライバー脇阪寿一から、お祝いメールをもらい、こう返した。「お互い頑張ろう!
燃えて灰になるまで!!」。4年後の五輪も目指す。だから灰にはならない。ただ、燃えさかるレジェンドの心は誰にも止められない。【渡辺佳彦】
◆逆転の可能性
五輪個人戦2冠で首位のストッホ(ポーランド)とは175点差で残り8戦。数字上、1戦あたり22点をつめれば逆転可能。順位でいえば葛西、ストッホが優勝-3位(40点×8=320点)、2位-4位(30点×8=240点)、3位-7位(24×8=192点)、4位-10位(同)…など。ただ風によるアクシデントなどでストッホが2戦でポイントなし、葛西が優勝なら一気に200点差で逆転可能。2位プレブツも五輪個人戦でメダル2個。葛西には発奮材料になりそうだ。