こんな日がくるなんて。思わず涙があふれた。

男子高飛び込みで玉井陸斗がやってくれた。ずっと、ずっと日本の飛び込み界の悲願だったオリンピックのメダル。その願いを、まだ高校生の玉井が成し遂げてくれた。

8月10日の日本時間、夜10時。いよいよ決勝が始まった。

序盤から激戦が予想される演技が連発していた。男子は難易度が高く、決まれば高得点を狙えるが、失敗すると大きく順位を落とす。ミスが許されない最もレベルの高い戦いである。

そんな緊張感の中で始まった決勝。1本目は、玉井が得意とする407C(後ろ踏切り前宙返り3回半かかえ型)。

「完璧」だった。2本目もジャッジが9点をつける完成度の高さ。このままいけばメダルも夢ではない。応援しながら手に力が入った。恐らく本人もメダル圏内である事は分かっていただろう。しかし、そんなプレッシャーをものともしないところが玉井の強さ。いつも通り、3本目、4本目と次々に決めた。

5本目の307C(前逆宙返り3回半かかえ型)を決めればメダルに大手!!という試合展開に祈りを送った。しかし、まさかの大失敗。回転を止めきれず、大きく水しぶきが上がった。

ラスト1本。とにかく祈るしかなかった。これを完璧に決めればメダルの可能性はまだ残っている。観戦しながら体が震えた。いよいよ玉井の出番。10メートルの台から大きく飛び上がった。

決めた!!!99.00!!!メダルが確定した瞬間だった。

何とも言えない感動に包まれた。本当に心臓に悪い試合だった。しかし、こんなに刺激的で面白い試合を見せてくれた玉井に感謝しかない。

そして、この日を夢見てずっと指導してきた馬淵崇英コーチにも心からのおめでとうございますを伝えたい。

玉井は以前からオリンピックでのメダルが期待されていた。しかし、その中で本当に成し遂げてしまう玉井は、やっぱり普通ではない。「天才」だ。

飛び込み競技のラストを、銀メダルと共に飾ってくれた玉井。最高のオリンピックを見せてくれて、本当にありがとう。

大会期間中は、寝不足の日々を過ごしていた人も多いのではないだろうか。

私も毎日テレビなどで、日ごろ観ることのできないさまざまなスポーツを観戦し、たくさんの発見や感動をもらった。

ライバルでありながらも互いをたたえあう姿は、感動とスポーツの素晴らしさを教えてくれる。

ここへくるまでに積み重ねてきた努力、そしてさまざまな挫折。辛さのあまり逃げ出したくなる事もたくさんあっただろう。それでも自分の夢や目標のために乗り越えてきた選手たち。オリンピックの舞台に立ち、精いっぱい戦った全ての選手に大きな拍手を送りたい。(中川真依=北京、ロンドン五輪代表)