<高校ラグビー:常翔学園17-14御所実>◇7日◇決勝◇花園
常翔学園(大阪第1)が御所実(奈良)に競り勝ち、17大会ぶり5度目の優勝を手にした。後半6分に10-14と逆転されて以降、攻め続けた。後半21分、高校日本代表候補SH兼FBの重一生(3年)から佐々木周平(3年)坂本泰敏(3年)のリザーブ2人がつなぎ、同候補WTB松井千士(3年)が逆転トライを決めた。前身の大工大高ラグビー部の“父”故荒川博司部長のモットー「協心」で、08年4月の校名変更後初の頂点へ。新たな力強い1歩を踏み出した。
背番号21の坂本が叫ぶ。
「右へ回せ!」
後半21分、左中間ゴール前10メートルのラックから、右に大きく伸びたライン。高校日本代表候補の重がSOに入った背番号23の佐々木へ、パスを出す。さらに、佐々木の背後から回り込んだ坂本がパスを受けた。最後は同候補WTB松井だ。右前方にぽっかり空いたスペースを突き、ゴール右隅に飛び込んだ。
攻めに攻めた。後半6分に逆転されたが、そこからだ。同15分にゴール正面10メートルのペナルティーからスクラムを選択。同18分にはゴール前20メートルのスクラムを押した。そして同20分、右中間ゴール前10メートルのスクラムから左へ展開。御所実守備陣を振り回し、右サイドに数的優位を作って決めた。
「いつかはトライを取れるイメージがあった」と佐々木。「みんなが『大丈夫、大丈夫』と言っていた。絶対に決めようと思った」と松井。高校日本代表候補も、リザーブも関係ない。ベンチ入り25人、いやラグビー部一丸の逆転トライだった。
名門ラグビー部で最も「自由」を与えられた世代だ。これまで年に10日もなかった休みが増えた。野上友一監督(54)が2年をニュージーランドに引率した夏休みには、10連休もあった。「休みも大事」。高校日本代表候補7人を擁するタレント集団だ。「今まで教えた中で、一番ラグビーの理解度が深い選手たち」を野上監督は信じた。
そんな「自由」に甘えなかった。昨年3月の全国選抜大会で石見智翠館に12-15で負けた。ロック山田有樹主将(3年)が3年だけを集め、ミーティングを開いた。みんなが言いたいことを言い、胸の内をはき出して、チームは1つになった。
日本一は大工大高で4度、常翔学園で1度となった。「新しい歴史が作れて良かった。でも、それより選手をほめたい」と野上監督も誇らしげだ。決勝トライを決めた直後に泣きだした松井を、坂本がグラウンドで注意した。「おい、まだ終わってへんねんぞ」-。観衆1万人がハラハラした大熱戦を、冷静に支配した選手たち。新たな歴史を作ったフィフティーンは頼もしかった。【加藤裕一】
◆常翔学園
1922年(大11)、関西工業専修学校として設立。摂南学園高、大工大高を経て、2008年から現校名。生徒数、男子1313人、女子468人。ラグビー部は1937年(昭12)創部、部員数98人。今回が2年連続33回目の出場で、過去優勝4回、準優勝2回。主なOBは元日本代表の河瀬泰治、藤田剛、元木由記雄氏ら。所在地は大阪市旭区大宮5の16の1。北尾元一校長。