【無料】苦い経験が生んだ名医の哲学 ケガしない、手術しない体づくりを/連載〈下〉

野球をする子供たちのひじ、肩のケガ予防に、情熱を燃やしている2人の医師を紹介します―。プロ野球界でひじ、肩の名医といわれる東京スポーツ&整形外科クリニック(TSOC)の菅谷啓之院長(64)と、横浜南共済病院の山崎哲也スポーツ整形外科部長(63)。菅谷先生は現役選手ではオリオールズ菅野智之投手、阪神西勇輝投手らのひじ、肩などのメディカルチェックを担当。山崎先生はDeNA東克樹投手、カブス今永昇太投手らのひじの手術を執刀しました。

経験豊富な2人のスーパードクターには「ケガしない、手術しないために」とケガ予防を推進する共通の思いがあります。

医療の最前線で活躍する先生たちに、小、中学生の故障予防のテーマで話を聞きました。選手、指導者、父兄の皆さん、ぜひ参考にしてください。

3回連載の最終話です。

その他野球

◆菅谷啓之(すがや・ひろゆき)1960年(昭35)8月11日、千葉県生まれ。匝瑳高(千葉)―千葉大医学部。大学時代に硬式野球部で投手として活躍したが、右肩を痛め、その経験から整形外科医を志す。96年、学位取得後に米国へ留学。97年、川崎製鉄健康組合千葉病院整形外科部長。2002年、船橋整形外科病院スポーツ医学センター、2020年、東京スポーツ&整形外科クリニックを開院。プロ野球選手らトップアスリート100人以上の肩、ひじの手術を担当、リハビリ等の保存療法は1000人を超える。


◆山崎哲也(やまざき・てつや)1961年(昭36)7月20日、新潟県生まれ。新潟高―滋賀医科大。横浜市立港湾病院、横浜市大病院等を経て、2000年、横浜南共済病院整形外科医長。日本肩関節学会、日本整形外科スポーツ医学会評議員など。プロ野球のDeNAベイスターズの前チームドクター。DeNA東克樹投手、カブス今永昇太投手ら100人を超すプロ野球選手を手術した実績がある。神奈川県内を中心に子どもたちの肩、ひじの健診を積極的に行っている。

■「動きのレンジが90度くらいになります」

2人の先生が子どもたちのケガ予防に情熱を燃やすのには理由がある。

過去の苦い思い出が礎になっている。

昔の話にはなるが、山崎先生が野球ひじ(離断性骨軟骨炎)が重症化した小学生のひじ手術を執刀した。

山崎先生ひじの悪いところを切除し、ひざから骨軟骨を移植して関節をつくりました。手術直後は、きれいに関節ができたと思って終わりました。

だけども結局は、そこの移植した骨もだんだん吸収されていき、変形していき、1年後、2年後には「えっ…」というレントゲンになりましたね。

そういうのを何例か経験していくと、もっと良い手術法があったのではないかということも考えますし、手術する前に何とかならなかったというのを考えますよね。

ひじというのはゼロ度から140度までくらい動きがあるのですが、ケガした子どもは、20度から110度くらいで、動きのレンジが90度くらいになります。半分以下になる子どもいます。

せめてもの救いは、(子どもから)野球ができるようになったから良かったです、ありがとうございますと言ってもらえることですが、よく見るとひじが曲がっている。そういうシーンを見ていると、成長期の子どもたちは手術しない体、ケガしない体づくりをしなければいけないと思っています。

そういう経験があるからこそ、山崎先生は、ケガの早期発見の活動にも力を注いでいる。元ソフトバンク監督の工藤公康さん、元横浜高校監督の渡辺元智さんら、志をともにする人たちと、子どもたちのケガ予防を目的とした「肩、ひじ健診」を推進。将来的には「行政や団体、組織のバックアップを得て、無料で検診できるのが理想です」と話した。

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編集委員

平井勉Tsutomu Hirai

Kumamoto

1967年、熊本市生まれ。1990年に入社し、プロ野球の西武、ヤクルト、巨人などを担当。米ロサンゼルス支局時代には大リーグを担当し、野茂英雄、イチローらを取材した。
野球デスク、野球部長、経営企画本部長などをへて現職。著書「清原和博 夢をつらぬく情熱のバッター」(旺文社)「メジャーを揺るがす大魔神 佐々木主浩」(旺文社)がある。