「都立国際何やってくれるかなあ!」「N高強すぎぃぃいい」「来年はオフラインで開催出来ると良いね」…。
コンピューターゲームなどで腕前を競う「エレクトロニック・スポーツ」ことeスポーツ。その高校頂点を決める「ステージゼロ」の決勝大会がライブ配信されると、チャット機能を利用して視聴者があれこれと感想を言い合っていた。
周囲の熱気に同調する様子は、超満員のスタジアムで行われる高校野球やサッカーと変わらない。画面上で繰り広げられる手に汗握る熱戦を観て、思わずコメント欄に書き込みたくなった。
■延べ747万人が視聴
記憶、集中、計算、反射神経、状況判断、空間認識などさまざまな技術を応用し、相手プレーヤーと競い合う。コロナ禍にあってオンラインで9月19~22日に開催された「ステージゼロ」は、全国1779校から2158チーム、計5555人が3部門に分かれて参加した。過去最大のエントリー数になった大会はライブ配信され、延べ747万人(前年比611万人増)が視聴した。
eスポーツ部がある高校では手厚いサポートで競技力向上につなげている一方、学生たちの要望になかなか応えられない学校もある。近年めざましい成長を遂げるこの競技が、教育現場でどう受け止められているのか。この「eスポーツの甲子園」とも言える決勝大会に出場した2校、東京都立国際高とN高等学校(沖縄)の状況を見ながら考えたい。
■6人の同好会でLoL決勝大会に進出
「リーグ・オブ・レジェンド(通称LoL)」部門に出場した都立国際高は、3年生6人による同好会で出場した。「ステージゼロ」と並ぶ規模の全国高校eスポーツ選手権ではベスト8に輝いた。前回のステージ0では惜しくも予選で敗退したが、今年は関東ブロックを勝ち上がり代表校になった。
専用PCやプロコーチからの指導など充実したサポートを受ける私立や通信制高校と比べ、環境面で対等とは言い難い。自宅で磨き上げた技術を武器に本大会の切符を勝ち取ったことは、eスポーツ界の「公立の星」のように見える。
決勝大会の初戦でルネサンス大阪高(大阪府)に敗れたが、キャプテンの久保天太朗君(3年)は「十分な環境がない中で、このメンバーでここまで来れただけでもすごいことなんです」と目を見開いた。学校側と折衝を重ねて、なんとか同好会にまで活動を押し上げた実績を誇った。
中学時代に両親の仕事の関係でカナダにいた久保君は、ゲーム好きな友人と遊ぶ中でeスポーツに親しんでいった。プレーヤー5人同士で相手陣地を攻めるリーグ・オブ・レジェンドをはじめ、一筋縄では攻略できない面白さに引き込まれた。
都立国際高入学後は1年生時から仲間集めに奔走し、いつか部活動にすることを目指した。同級生らと有志で挑んだ大会で勝ち進み全国大会出場も経験した。ただ内外から誇れる活動実績を得ても、久保君の夢はいまだ実現できていない。
学校側から同好会として活動することは認められているが、練習場所など競技環境が改善されたわけではない。学校内での活動は制限があり、自宅でプレーする状況は変わらない。「スペックが低い家のパソコンやモニターだと、eスポーツでは不利だよね」「Wi-Fiが不調で試合中にフリーズした時は焦ったよ~」など、生徒たちの間からは不満が絶えない。
部活動として認められないことについて、久保君は「学校の中でゲームをすることが『遊び』と捉えられているのかな」。学校側の価値観を劇的に変えることはできていないと感じ、もどかしさを抱えている。それでも、顧問の宮崎三喜男教諭は「公立高校で同好会を立ち上げ、そして数々の実績を残した。このことに象徴されるように閉ざされたと思っていた壁を乗り越えたという面で、君たちの一歩は決して無駄ではない」と評価する。
■800人が部員のN高等学校
「ステージゼロ 決勝大会」2部門を制したN高等学校は、充実した競技環境を誇る。18年に創部した「eスポーツ部」には800人を超える生徒が在籍し、グループチャットで連絡を取り合っている。最大の魅力はプロゲーマーら顧問から直接指導を受けられることだ。
「リーグ・オブ・レジェンド」優勝メンバーの大友美有さん(3年)は、そんな環境に引かれて埼玉の公立高から転校してきた。モデル業もこなしながら、通信制高ならではの柔軟なカリキュラムを生かし1日平均12、13時間を競技に打ち込んできた。「コンディションが悪い時はパフォーマンスが落ちるんでプレーしませんが、予定がない日は朝からLoLしてます」。口元を緩ませ話す表情には、充実さがあふれている。
優勝メンバーは関西と関東に散らばっているため、大会以外で顔を合わす機会はほとんどない。プロゲーマーを交えたオンライン会議で戦術を決定し、忠実に実行した。前回大会に続くLoL部門で優勝を飾ったことに、大友さんは「家族からも勝った瞬間にラインが送られました。どうしても勝ちたかったので、家でもしばらく余韻に浸りました」と振り返った。
最近ではプロゲームチームの練習にも参加が認められ、腕に磨きをかけている。eスポーツの魅力について大友さんは「練習すればするほど実力が上がり、周りの目が変わってくる。私にとっては自己成長を実感できる場なんです」。自分に何が向いているのか探す上でいろいろな部活動があった方がいいと考え「ゲームに対するマイナスイメージを変えることができればもっと発展できる」と太鼓判を押す。
■中韓米が先進 環境整備遅れる日本
19年茨城国体文化プログラムとしてされた全国都道府県対抗eスポーツ選手権をサポートした「一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)」の浜村弘一副会長は、海外と比べて国内の環境整備がまだ十分ではないことが一因にあると指摘する。
先進国は韓国、市場規模の大きい中国や米国が席巻していると言い、「(日本は他国と比較して)ゲームに対するリスペクトが欠けている。国体文化プログラムのような権威ある大規模な大会が開催されたり、街に練習場が増えていけば状況も変わってくるはず」とインフラ構築を目指している。
教育現場でeスポーツへの反発があることは想定内だ。障壁を取り除く上で、学校内でゲームの有用性を訴えることが大事だとみる。4月から全国の小学校で必修化された「プログラミング教育」が浸透すれば、授業の中で簡単なゲームを作ることもあるはず。その過程でゲームの良さがわかってくると思う。ひいては、判断力やコミュニケーション能力を養えるeスポーツへの見方も変わってくると力説する。
■「メジャースポーツ並みの観客数へ
コロナ禍で在宅需要が高まる2020年、オンライン市場は急拡大している。eスポーツの観客数は世界で5億人に達すると見込まれており、その規模はメジャースポーツ並みだという。リアルスポーツとの相乗効果を見込み、サッカー界もこのエレクトロニック世界に参入するなど、関心の度合いは以前にも増して高まっている。
今回話を聞いた都立国際高eスポーツ同好会は、久保君ら初期メンバーが来年3月の卒業を迎えると、残るのは1年生1人のみとなる。同好会を継続するには最低5人が必要なため、来年度以降の活動存続が危ぶまれている。それでも創始者として久保君は「(eスポーツは)競技の魅力も将来性もある」と断言し、後輩たちのためにも新規会員を確保したいと意欲的だ。
なぜeスポーツ部を立ち上げたいのか?
「学校内にeスポーツ専用のパソコンが並ぶ光景があったら、面白そうじゃないですか」
時代に見合った世界的な流れ、それを肌で感じているからこそのひと言だろう。真剣な表情で話す口ぶりには、一段と熱が帯びていった。もがき続けた青春の1ページ。夢半ばとなった部活動立ち上げへの思いは、後輩たちに託されることになる。【平山連】