箱根駅伝4連覇中の青学大・原晋監督(51)が今思うこと感じたことを記す「原監督のハッピー大作戦」。第5回のテーマは、日本相撲協会を退職した元貴乃花親方(元横綱)について。協会と元貴乃花親方サイドはなぜ平行線のまま「平成の大横綱」が角界を去ることになったのか。原監督が分析した。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

元大横綱の退職という結末は残念でならない。元貴乃花親方サイドと協会サイド。昨年の暴行問題から対立が深まったように見えたが、その後も議論がかみあわないどころか、同じテーブルに乗ることもない。がっぷり四つに組むこともなく、最悪の形を迎えてしまった。

パワハラ問題なども含め、騒動の多いスポーツ界。今のスポーツ界は注目され、観察の対象にはなっているが、改革の当事者にはなれていない。何がおかしいのか、何の改革が必要なのか。その主体(テーマ)が見えてこないから、議論はかみあわない。それは今回の元貴乃花親方問題にも見え隠れする。

8年前、元貴乃花親方は相撲界の改革を旗印に一門を離脱。37歳の若さで理事に当選した。ただ、その後は具体的な改革のテーマが外部にあまり伝わってこなかった。なぜか。行司役がいなかったからではないだろうか。形だけの外部理事ではなく、経営、マネジメント能力のある人間を入れ、協会と元貴乃花親方サイドの間を取り持ち、角界の未来像を話し合っていけば良かった。

相撲協会を含めスポーツ団体には、日常の競技活動などの実務と、団体のマネジメントと2つの役割がある。相撲協会でいえば、普段の稽古をつけ、本場所、巡業を遂行していく。これが実務。角界の将来、未来像を考えながら、具体的に改革を実行する。これがマネジメント。スポーツ団体には、たとえ理事という役職でも、このマネジメントに携わる人が少ないと感じている。日々に追われ、実務に忙しい人間が多いから、改革を叫ばれても「自分たちはちゃんとやっているのに」となってしまう。

元貴乃花親方も現役時代の実績はいうまでもなく、現場の指導者としても優秀だった。だが、協会全体を見渡す能力、親方同士のコミュニケーション能力には、外部から見ても不足していたように見えた。

これからの指導者、親方、理事は、現場だけを見るのではなく、団体の将来プランを考え、今の課題をあぶりだし、具体的な改革を考えなければならない。そのためには、指導者にスポーツマネジメントを教育していく。スポーツ団体には、形だけの外部理事ではなく、経営、マネジメントに精通した人間を多く入れるべきだろう。その人間たちが、団体の未来像を語り、具体的な改革を実行する。サッカー、バスケットボール界を改革した川淵三郎氏のような人材が理想のイメージに重なる。

未来を語れるマネジメント能力のある人物が相撲協会内部にいれば、現体制と元貴乃花親方の双方の意見を聞き、具体的な改革のテーマを決め、行司役になって話し合うこともできただろう。

元貴乃花親方の退職は角界にとって大損失だし、人気面でも影響が出るかもしれない。ただ、なぜ大横綱で理事長候補だった元貴乃花親方を使いこなせなかったのか。日本相撲協会は今回の事態と向き合い、協会、組織のあり方を考えるきっかけにしてほしい。(ニッカンスポーツ・コム/コラム「原監督のハッピー大作戦」)