連日、白熱しているパリ五輪。
トライアスロンは先日、全行程が終了した。
【パリ五輪トライアスロン=セーヌ川】という部分で、各方面で取り上げられているので、既にイメージが根付いてしまっていると思うが、トライアスロンという過酷で魅力なスポーツを闘い抜いたアスリートたちに、エキサイティングで感動的なレースをありがとうと言いたい。
今回は、タフな環境下で闘い抜いた選手たちのレース展開を記したいと思う。
まずは女子のレースから。
女子は小雨で路面が濡れているコンディションだった。今回のコースの特徴でもある石畳のコースは路面が濡れると非常に滑りやすくなる。スタート前から「これはサバイバルレースになるな」と予測できた。
そして、もう一つのポイントでもあったセーヌ川の流れ。正直なところ、私たちトライアスリートは色んな海、川、湖で泳ぐので多少汚いところは慣れている。しかし、川の流れがあるところはなかなか泳ぐことがない。今回はほとんどの選手が「こんなに流れがあるところははじめて」「流水プールのようだ」と口にしていたし、現地で応援していた人からの動画を観るだけでもびっくりするほど流れが強かった。
みんな条件は一緒だとは言えども、五輪史上1番タフなレースだったと感じられた。
女子の優勝候補は、自国フランスでも大人気、カランドラ・ボーグランド選手と、イギリス代表でリオ五輪では陸上1万メートル代表でもあったベス・ポッター選手が名乗りをあげていた。そこに、東京五輪金メダリストで勝負強さが光るバミューダ諸島代表フローラ・ダフィー選手や東京五輪銀メダリストでイギリス代表のジョージア・テイラーブラウンがどうレースを動かすかに注目をしていた。
川の流れが強く、多くの選手が苦戦する中で、主導権を握ったのはダフィーだった。スイムをトップであがり、バイクは1人で独走体制を作る。1987年産まれの37歳。私と同い年ということもあり、彼女のレース展開には興奮した。選手たちは路面が濡れている為、いつも以上に注意が必要で神経を使ったに違いない。
しばらくしてダフィーが後続に捕まり、10名程の第一集団が形成された。その中には、ほとんどのメダル候補選手がいる状態。
後ろからは今大会で自転車レースにも出場したアメリカ代表テイラー・ニブ選手がバイクで猛追するものの、スリップし、実力が発揮できなかった。
メダル候補選手たちはそのままランへ。
最初に飛び出したのは、今大会のダークホース、スイス代表のジュリ・デロン選手だった。彼女はバイクのパフォーマンスが非常に高く、今回のタフなコースで実力以上のものが発揮されているとも感じた。終始デロンがレースを引っ張る中、最終周回で動いたのは、ボーグランドだった。彼女は2016年のリオ五輪から、フランスのホープとして期待をされており、ジュニア世代からエリートレースに参戦していた。ランの走力は陸上選手並みで、勝負勘も鋭い選手が最後はライバルたちを大きく引き離し、華麗な優勝を飾った。2位にはデロン、3位にはポッター、そして4位にはフランス代表23歳のエマ・ロンバルディ選手が入った。
日本のエース、高橋侑子選手は40位でのフィニッシュ。結果だけみたら悔しい気持ちもあると思うが、インタビューを受ける高橋選手の表情を見て、この大会に向けて、やることはやった! 悔いはない! という晴れやかな表情をしていた。結果はもちろん大切だか、選手それぞれここまで向けてやってきた過程が大切だと改めて感じた。
次は男子。
本来ならば女子の前日にレースだったが、水質の関係で女子と同日に開催された。
雨も上がり、蒸し暑いコンディションでスタートした。
男子の優勝候補はイギリス代表アレックス・イー選手、そのライバルであるニュージーランド代表ヘイデン・ワイルド選手だ。この2強に強豪フランス勢や東京五輪金メダリストのクリスチャン・ブルメンフェルト選手ら、誰が食い込めるかが見どころでもあった。
女子と同様、川の流れが激しく苦戦する中、イーが良いポジションにつける。バイクは路面が乾いている中だったので、ハイスピードな展開となった。そんな中、ワイルドはスイム終了後、1分以上遅れた。私だったらこの差は諦めてしまうところだが、彼は7周回中の最初の1周回で30秒縮め、更にはその後先頭集団に追いついた。メダル候補者の数人は後方へとなったが、ほとんどのメダル候補者はそのままランへ。日本人初のメダル獲得を目指すニナー・賢治選手も先頭集団でランスタートした。
最初に飛び出したのはランの絶対的走力を持つ、イーだった。彼は1万メートル27分台の自己記録を持つ。日本の実業団選手らと変わらぬ力があるのでイーが先行した時点で勝負が決まったと思った。しかし、そうはさせぬとワイルドが追いついた。いつも彼らは並走し、【最後のスプリント勝負までもつれ込むとイーが勝つパターン。】と、客観的に観ている私までも彼らのレーススタイル、ストロングポイントがわかるほどだ。このまま行くと並走して、イーが優勝か?と思ったが、なんとワイルドが引き離しにかかった。15秒、約100メートルもの差をつけ、最終周回へ。これはワイルドに勝負ありか。と、思ったが、次はなんとラスト400メートル、最後の折り返しでイーが追いつき、そのままフィニッシュテープを切った。
なんとも熾烈でエキサイティングなレースを魅せてくれた。
フィニッシュ後、倒れ込むイーにワイルドは肩を並べ、ブルーカーペットを眺める光景は、トライアスロンの象徴でもあるレースを闘い抜いたあとの美しさそのものだった。
3位には自国フランス代表のレオ・ベルジェール選手、4位に同じフランス代表のピエール・ル・コー選手が入った。フランス勢の強さも光るレースとなった。
メダルを狙ってニナーは、15位。本人は非常に悔しい表情を浮かべたが、世界の層が厚くなってレベルが高くなっている中、最後までよく闘い抜いたと思う。小田倉真選手は41位となったが、インタビューでの悔いはないという表情が、彼の努力を物語っていたように思う。
ヨーロッパではトライアスロンは人気スポーツなので、パリの名所を巡るトライアスロンのコースには、大勢の観衆が駆けつけた。
トライアスロン=自らやるスポーツに定着している日本でも、トライアスロン=観るスポーツへと進化させたいと、今回のパリ五輪で改めて感じた。
多くの方に感動と一歩踏み出す勇気を与えてくれたアスリートに感謝したい。
(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン日本代表)
(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「トライアスロン カトちゃんのここだけの話」)