<全国高校バスケット選抜優勝大会:札幌山の手80-73山形商>◇女子決勝◇28日◇東京体育館
胸を張っていい銀メダルだ!
山形商が創部63年目で初の決勝に挑み、大会2連覇を狙った札幌山の手(北海道)に惜敗した。大会ベスト5に選ばれた大沼美琴主将(3年)ら選手の奮闘は及ばなかったが、東日本大震災に見舞われた特別な年に東北勢女子38年ぶりの準優勝を持ち帰る。
頂点には届かなかった。それでも、山形商の快挙が色あせることはない。県勢初、東北勢では73年以来の準優勝だ。試合後の涙に悲愴(ひそう)感もない。大沼主将は「仲間と練習し、多くの人に支えられた。日本一の目標は達成できなかったけど、新しい歴史はつくれたと思う」と笑顔でチームメートと抱き合った。
前半は最大14点リードも誤算が生じた。札幌山の手の高校生日本代表、長岡萌映子(3年)と渡り合った仲野由真(3年)が5ファウルで退場。今大会5戦計204得点の怪物・長岡のすさまじい圧力に反則が積み重なった。高橋仁監督(54)は「仲野がいないと機能しない。不在用の練習もしていない」と心中した大黒柱を、下げざるを得なかった第3クオーター(14-24)に逆転された。負担が激増した大沼が28得点と気を吐くも、限界があった。
今夏の総体で過去最高タイの8強に入り、国体で初の準優勝。高橋監督は「おぼろげに見えていた全国の頂点が、国体ではっきり見えた」と話す。日本一に近づいた大沼ら3年生は、早くも中学時代から「山商で全国制覇」という目標を掲げていた。中学2年の時に山形選抜で全国4強。頂点への夢は「みんなで山商に行って達成しよう」と持ち越した。そのため県外の強豪の誘いを断った選手も多く、この日22得点の加藤臨(2年)ら後輩も続いた。
公立校のハンディも乗り越えた。強豪に成長した今も、平日は毎週水曜日しか自校の体育館を使えない。自転車やバスで間借り先の体育館を転々とする一方、週末は山形大や山形銀行といった大学、社会人の胸を借りて練習する。その上で高橋監督は中学生にバスケ教室も開き、県全体の底上げを図ってきた。
東日本大震災が発生した3月11日、大沼主将はU-18日本代表の合宿先、名古屋で地震に遭った。大沼のコートネームは「リト」。英語で「絆」を意味する「リガメント」から取った。震災があった今年の世相を表す漢字は、くしくも「絆」。「負傷者が最も多かった代なのに、最も強くなった。けが人が出るたび、みんなで支えようと一丸になれた」と大沼。激動の年の瀬に、絆を結び、東北勢38年ぶりの準優勝を届けた。
夢の全国制覇へ、新チームは早くも始動する。この日夜、合宿先の栃木に向かい、今日29日に練習試合を行う。休む暇もない高橋監督は「何年かかるか分からないけど、また日本一を目指せるチームをつくっていきたい」。山形商が確かな足跡を残した。【木下淳】