監督交代があった阪神で、最も分かりやすい変化は練習風景かもしれない。秋季キャンプでは、あちらこちらで藤川球児監督(44)や各コーチ陣による指導が繰り広げられていた。
岡田彰布前監督(66)は選手とはあえて距離を置いた。技術指導も例外をのぞいては控えた。コーチ陣も同じ。とくに技術に関して「聞かれるまでは触らない」基本方針があった。だから表面上、コーチ陣の動きはおとなしかった。
もちろん、各コーチは見えないところで責務を果たそうとしていた。怒るべきことには怒り、助言を与え、選手の相談にも乗った。ただし絶対的な経験、知見を持つカリスマ監督の下では、言動が著しく制限されたのは間違いない。
コーチが試合後のコメントを拒否することも日常茶飯事。もちろん監督の目を気にしてのこと。退任したあるコーチは「皆さんにしっかりと話せなかったことをおわびしたい」と、わざわざ報道陣に頭を下げた。そういう「一党制」で18年ぶり優勝という成果が出たのは、正しい方向にチームを導き続けた指揮官の手腕にほかならない。
前監督の薫陶を受けている藤川監督は対照的だ。コーチに裁量を与えている。いわば、合議制。各部門に「チーフ」を設けたことに意図が見える。コーチ陣は指導や発言をある程度、自由にできる。その代わりにチームが間違った方向に行かないよう、情報の管理を徹底している。
秋季キャンプ中は毎晩、コーチミーティングがあった。スタッフも含めた拡大ミーティングもあれば、コーチだけで食事をとりながら、時にはアルコールも入れて、かんかんがくがくを繰り返した。
夜に結構な飲食をするため、体重を増やして帰ってきたコーチもいた。部活の合宿のように昼も夜も時間をともにして、互いの野球観をすり合わせ、選手に関わる情報を共有した。密なコミュニケーションこそが、藤川野球の根幹になっていくのだと感じた。
前監督とのコントラストは興味深い。正否を問うのはナンセンスだろう。首脳陣の手を離れる冬の期間、そして再集合する春季キャンプからシーズンインへと、チームがどう進んでいくのか、楽しみは尽きない。【阪神担当=柏原誠】