圧倒的な勝利を重ね、全勝で決勝戦に進出した日本。今大会を見続けている人は勝負事に絶対はないとはいえ、高い確率で勝てると思っていたのではないか? もちろん、ここまでの戦いぶりを見れば、そう思うのは当たり前とも思える。しかし、今試合は始まる前から嫌な予感がしていた。
なぜか? 前日、先発投手を巡っての経緯が嫌な予感の始まりだった。今大会は予告先発だったが、台湾が前日の試合前の直前に急きょ、先発を変更した。デーゲームで米国がベネズエラに勝利。日本-台湾戦の結果に関係なく両チームの決勝進出が決まり、台湾が予告先発していたエース林■(■は日の下に立)■(■は王ヘンに民)を、今試合の決勝戦に先発させるためだった。
当然、日本は抗議して台湾は罰金を科せられ、前日の試合は林と同じ左投手が先発することで変更が認められた。ルール破りを認めていては、競技そのものが成り立たなくなる。決まっているルール内で判断するなら、日本の主張は正しいだろう。しかし、そもそも今大会は、スーパーラウンドで試合開始時間が確定されていた日本に有利なルールでもあった。
個人的な臆測だが、林はダイヤモンドバックスの所属投手で「連投はさせない」という条件で今大会に参加していたのだと思う。台湾側からすれば消化試合にエースを先発させる必要はなく、決勝戦で先発させたいのは当然だろう。日本の勝利確率を度外視して言えば、大会を盛り上げるためにもその方がいい。
ルール違反をした台湾だが、そもそもの今大会のルールや開催日程は日本が有利。そして実力差もあった。そんな条件下で「同じ左を先発させろ」など、小さなクレームを付けることに、それほどの意味はないと思っていた。本来なら負い目を感じてもいいはずの台湾だが、追加のクレームで闘争心はMAXに膨れ上がっていた。
先発した林は、すさまじい迫力だった。ボールが抜けて打者の頭部付近にいっても「なんか文句あるのか!」という表情。インコースにもどんどんと投げ込み、荒れ球の投手が好投する条件にはまっていた。捕手の林家正もピンチを招く度に投手にゲキを送っていた。打席でも先制本塁打を放った。
気迫に押されたのか、日本の戸郷ー坂倉のバッテリーも序盤はフォークでかわすピッチング。こうした投球だと短いイニングならいいが、3回り目ぐらいから苦しくなる。案の定、5回には2本塁打を浴びて4失点。試合の主導権を奪われてしまった。
勝負事の怖さだろう。このゲームに限らず、余計な発言で相手チームを怒らせ、負けてしまった試合は何度も見てきた。ただ、圧倒のまま優勝するより、完封で敗れたことは今後へのいい教訓になったと思う。劣勢な精神状態をはね返す本当の実力をつけてほしい。(日刊スポーツ評論家)