西武の高卒2年目・山田陽翔投手(20=近江)のピッチングを1週間で2度見ることができた。甲子園での雄姿から、変わった部分も、成長した部分も感じることができた。
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昨年は3軍にいた期間が長く、私は試合で投げる姿は見られなかった。15日のDeNA戦で久しぶりに山田のピッチングを見たが、フォームが変わっていて、それが強く印象に残った。
私が知っている甲子園でのフォームは、主にセットポジションから、左足を上げ、足を上げたまま、ホーム側に体重移動し、さらに上半身が左足に移っていく。そんなイメージだった。
それが、いったん左足を上げると、すぐにまっすぐ地面に降ろし、そこから地面を擦るようにしてホーム方向へスッと移動させていた。最初見た時は、「あれっ」と思った。フォームを変えたんだという意外性と、左足の動かし方を変えただけで、随分イメージも違って見えるんだなと、驚きに近い感想を抱いた。
その試合は2番手として1イニングを投げ、1安打1四球での無失点。私の見た限りでは、真っすぐの力も、目に見えて成長したとは感じなかった。
これはプロ野球経験者、そしてコーチ経験者の悪いクセだと思うが、自分の記憶やイメージと異なるフォームになると、その変えたことに意識が引っ張られ、フェアな評価を下しにくくなる。例えば山田ならば、どうしても灼熱(しゃくねつ)の甲子園で連投に耐え、真っすぐを武器に真っ向勝負していた印象が拭えない。
ゆえに、フォームを変えたことで、これまでの自分のイメージと異なるボールに見えてしまいがちで、どちらかと言えばマイナスの方に作用してしまう。制球も球威もそれほど成長していないのでは、と。見る側の心理としてそういう傾向にあると、私自身もうすうす感じていた。
そして、21日に図らずも2度目の取材に恵まれ、今度は先入観を極力排除して見ようと努めた。最速は144キロ。日本ハムの清水に対して、追い込んでから外角一杯に決めた真っすぐはとても良かった。清水のバットに空を切らせ、狙って奪った空振り三振に見えた。
コースは言うことはない。高さはベルト付近で少し高い。あれもこれも、すべてをクリアせよ、というのは無理な話で、まずはコースをきっちり投げたことはとても良かったと思う。あのコースにしっかり指のかかったボールを投げることができれば、山田のピッチングの根幹は、これから少しずつ形になっていくだろう、そういう気持ちになる真っすぐだった。
先日、このリポートで取り上げたばかりの左打者の阪口に対しては、初球サインに首を振ってツーシームを投げてボール、2球目はフォークを見逃してストライク、3球目もフォーク、4球目もフォークと連投して、いずれも空振りで打ち取った。
恐らく初球のサインは真っすぐか、カットボールだったのではないか。それを首を振ってツーシームを投げたところに、山田の対左打者への組み立てに対する感触が見えた。左打者からすれば外角に逃げていくツーシームは、打ち気にはやるケースでは有効だ。
阪口の打席での雰囲気を感じとり、そこは冷静な観察力があったのだろう。そして、フォークを3連投。真っすぐにも意識があったであろう阪口の狙いを外すように、しっかり空振りを取った。落差もまずまず。制球も悪くなかった。
右打者には、ツーシームを軸にしていた。長打力のある野村には、初球ツーシームで詰まらせて内野ゴロ。自分のツーシームにある程度の自信、手応えがあるのだろう。右打者の内角に食い込んでくる山田のツーシームは、さらに磨いていけばおもしろいボールになりそうだ。
私がファームで見たピッチャーでは、右投手が右打者の内角を攻めるツーシームの使い手は最近は見当たらない。山田はツーシームと表現しているが、私が見たままで言うならば、ストレート系で右打者の内角に食い込む軌道だ。いわゆるシュートに近いボールと言っていいだろう。
ある程度真っすぐに威力が出てきて、このツーシームにもしっかり精度を出していけば、右打者への山田の攻め方の基盤も見えてくる。内角を攻めるのは勇気がいる。それでも、プロで生き残る武器として、右打者の内角にツーシームを投げる覚悟があり、それを操る技術を確立したなら、これは山田の個性として期待をしたい。
プロ2年目で、まだ見違えるような体格とは言えない。下半身も大きくなったなあ、とはまだ言えない。これから、どんどん鍛えてたくましくなっていくだろう。その時に、この日見たピッチングのベースがよりレベルアップしていたら、どんな対決をするのか、とても楽しみだ。
いろいろ考えながら見ていたら、もう山田のフォームが気にならなくなっていた。ずいぶんと勝手なものだとは自分でも思うが、私が出した結論は「いろんなものを試せばいい。自分に合ったものを見つけるためには試行錯誤してみて、はじめて分かるものだから」と、なった。
自分の判断で試して、自分の決断で取捨選択して、少しずつ一番自分にあったものを身につける。これが結果の世界で生きるため、誰もが通る道だろう。去年までは3軍でのトレーニングが多かったが、今季はこうしてファームで投げている。NPBの打者相手に投げるようになった、ということだ。もっとたくましく、がっしりした山田が、ツーシームを武器に堂々と渡り合う姿を早く見たい。(日刊スポーツ評論家)