ロッテの高卒ルーキー・木村優人投手(19=霞ケ浦)のピッチングが非常に印象に残った。先発して1回だけだったが、イニングが短いことで、かえってもっと見たかったな、という思いが強くなる、そんなピッチングだった。
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1回6打者に対して21球を投げ、3安打(1本塁打)1奪三振での失点2という内容だった。最速は150キロ、カーブ、フォーク、カットボールという球種でのピッチングだった。
昨年、甲子園出場はなかったが木村の名前はスカウト陣から聞かされていた。いつかは見たいと思って、この日先発だと知り、やっと見られるなと思いながら注目していた。
DeNAはファームの優勝がかかっており、スタンドも大勢のファンで埋まっていた。立ち上がり、1死から石上に147キロの真っすぐを右翼に運ばれ、井上、松尾にもヒットを許した。結果を見ると、高卒ルーキーとして、まだまだ物足りなさが残るのだろうが、私の感想はちょっと違った。
何か普通とは違うなと感じながら見入っていたが、やはり真っすぐがいいのだと気づいた。まだ体は出来上がってない。これから、下半身を含めてもっと大きくなり、安定してくると思うが、その割にはボールに力があった。
私が気にするベース板での強さも出ていた。そして、何よりも、フォームに力みが感じられなかった。150キロは、今の先発投手としてはそれほど速くない。だが、木村の力みのないフォームで、それこそリリースポイントだけ力が一瞬入ったように見える中、ボールの威力は十分に出ていた。
速球派というのは、体全体を目いっぱいに使って、ダイナミックに投げ込んでくるものだが、木村は一線を画している。体重移動をしっかりしつつ、腕の振りもしなやかで、全力投球という感じではない。先述したようにリリースポイントだけ力を込めてる印象だ。
それで、スピン量がしっかりある、打者の手元でぐんと伸びてくる球質になっている。確かに1ホーマーを含む3安打を許しているのだが、19歳の今の時点でこれだけのボールを投げることは、極めて高い将来性を秘めているといえる。
この日の試合前までで、10試合に登板しているが、投げたイニングは18回。最多は3イニングで、首脳陣が先を見据えて登板させている意図が感じられる。この日の1イニングは予定通りだったのか、もしくはなにがしかの事情があったのかはわからないが、先を見据えた中、1年目の終わりにこれだけのボールを投げていること自体、非常に先行き楽しみだと思わせてくれる。
この試合で投げたカットボール、フォーク、カーブの中では、カーブが非常に良かった。115キロとしっかりブレーキも効いている。私は見ていて全盛期の岸を思い出した。特に西武時代は、しなやかな腕の振りから、豊富なスピン量の真っすぐを投げ、緩いカーブを交えた見事な緩急を実現していた。
私は捕手の立場から、カーブの有効性に大いに注目している。今は緩いカーブ、きれいな軌道を描くカーブの使い手が少ない。広島森下などがその代表格だが、真っすぐとカーブという緩急は、質が高ければ、それだけで勝負できる。
木村のカーブにはそういう可能性が感じられる。恐らく、真っすぐは、下半身が出来てくれば150キロ後半は期待できるだろう。その時に、この115キロのカーブがあれば、およそ40キロの球速差が生まれる。となれば、これは打者にとっては非常にやっかいな組み合わせとなる。
さほどの力感がなく、それでいてスピン量がある真っすぐ、そして緩いカーブ。これは本格派右腕として楽しみだ。カーブを投げる時、腕の振りが緩くならないこともプラス材料だ。
この日、147キロの真っすぐがやや高めにいって、空振りを奪っていたが、これがベルト付近よりもやや低めに決まるようになると、さらに良くなる。低めにスピン量のある真っすぐで空振りが奪えるようになると、苦しい場面でも自信をもって真っすぐで勝負できる。
本来、若手選手の特長を踏まえ、どちらかと言えば先を見据えて課題をしっかり解説することを念頭に置いているが、はからずも1イニング3安打2失点ながら、これだけ良さばかりを解説することなるとは思わなかった。
このポテンシャルを最大限に生かすためにも、しっかり下半身を鍛えること。そして、この力感のないフォームを大切に、スピン量のある真っすぐを磨くこと、これだけは忘れずに日々の練習を大切にしてもらいたい。(日刊スポーツ評論家)