今月7日からロサンゼルスを襲っている大規模な山火事は、ハリウッドの映画産業にも多大な影響を与えています。現在も2カ所で延焼が続いており、1万2000棟を超える建物が焼失。15万人以上の人々が避難を余儀なくされ、死者は27人に上っています。中でも、ハリウッド俳優や映画業界関係者も多く住む西部の海が一望できる丘にある高級住宅地パシフィックパリセーズが壊滅的な被害を受けたことは大きな衝撃で、俳優アンソニー・ホプキンスやメル・ギブソン、タレントのパリス・ヒルトンら多くのセレブが自宅を失い、映画のロケ地として長年親しまれてきた高校なども被害を受けています。
ハリウッドは3月2日にアカデミー賞授賞式を控えており、本来ならこれからが1年で最も華やかになる季節ですが、テレビドラマや映画の撮影、プレミア上映会やイベントなどが中止や延期になるなど映画産業は停止状態に陥っています。多くの人が家や職場を失い、さらにまだ延焼が続いている中で、セレブたちが華やかな衣装に身を包んでレッドカーペットを歩くことには賛否両論があります。
23日にはアカデミー賞のノミネーションが発表されますが、現時点で分かっていることをまとめて紹介します。
■ノミネート発表は23日に再延期
当初は17日に発表が予定されていましたが、投票権を持つ人たちの多くが避難を余儀なくされたことなどを受け、主催する映画芸術科学アカデミーは19日に延期を発表。その後、さらなる被害の拡大と鎮火の目途が立たないことなどから、再び23日に再延期することが決まりました。ちなみに、同アカデミーの理事会メンバー4名と元CEOも火災で家を失ったと伝えられています。
■授賞式はいつどこで? 恒例の昼食会は?
授賞式は現地時間3月2日、ハリウッドのドルビー劇場にて予定通り行われることが発表されています。一方で、オスカー候補者が一堂に会する昼食会は中止が決まりました。アカデミーは、火災による被災者を支援するため昼食会の費用25万ドルを映画テレビ基金に寄付するとハリウッド・レポーター誌が伝えています。
■授賞式は例年とは異なる?
アカデミーは声明で、「火災の消火に尽力した最前線で働く人々を称え、被害を受けた人々を認識し、救援活動を支援するよう人々に呼びかけることを楽しみにしています。一緒にこの困難を乗り越え、世界中の映画界に癒やしをもたらします」と述べており、慈善募金的な番組要素を含む式典になると見られています。映画界の底力と団結を示すと共に、救急隊員や被災者のための寄付を募る取り組みが行われるかもしれません。
一方で、多くの住民が避難を強いられ、ほぼすべてを失った人も多い中で、華やかな授賞式を行うことには否定的な意見もあります。著名作家のスティーブン・キング氏は「ロサンゼルスが燃えている中、華やかなイベントは必要ない」として中止すべきとの個人的な見解をSNSに投稿しています。一方で中止となれば授賞式に関わる大勢の裏方の人々が仕事を失うことから、経済的な損失の観点からも中止すべきではないとの意見もあります。
■アカデミー賞以外の授賞式は?
米脚本家組合(WGA)もノミネート発表を13日に延期したものの、再延期を決定。新たな発表時期は未定となっています。12日に授賞式を予定していたクリティクス・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)は26日に延期を決めたものの、現状を顧みて再延期を発表。現時点で2月に行う予定であること以外、詳細は発表されていません。
一方で、音楽界で最も栄誉とされるグラミー賞授賞式は、当初の予定通り2月2日にダウンタウンにあるクリプトドットコム・アリーナで行われると発表されています。消防士や救急隊に焦点を当てた内容になると見られており、今後に続く他の授賞式の手本となりそうです。
■日本関連のノミネートの可能性は?
昨年は「ゴジラ-1.0」(視覚効果賞)と「君たちはどう生きるか」(長編アニメ賞)がダブル受賞する歴史的快挙となりましたが、今年ノミネートされる可能性があるのは長編ドキュメンタリー賞の伊藤詩織監督の「ブラック・ボックス・ダイアリー」です。自身の受けた性的暴行被害の調査過程を記録した作品は、ノミネートを発表する前に候補を15作品に絞る「ショートリスト」入りしており、最終的な5作品の中に選ばれる可能性が高いと見られています。また、国際長編映画賞ではKoki, 、本木雅弘、中村雅俊らが出演するアイスランド映画「TOUCH/タッチ」がショートリストに選ばれており、候補入りが期待されています。
【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)