2017年から3年と少し連載をさせていただいているこのコラムですが、次回2020年3月更新で最終回を迎えることになりました。ラスト2回というところで、わがままを聞いていただき、「私の今一番会いたい人に会いにいく」というコラムにさせていただきました。私の今一番会いたい方、ずばり、作曲家・星部ショウさんです。トーク編第54回「作曲家が紡ぐ言葉の選び方」。
■星部ショウ氏プロフィール■
1985年東北出身。12歳でギターに出会い、高校卒業後、音楽学校進学のため上京。2015年より作家活動をスタート。モーニング娘。、アンジュルム、Juice=Juiceなどハロー!プロジェクト(略称:ハロプロ)のアイドルグループにたくさんの楽曲を提供している。
■謎に包まれた星部さん■
私五戸はハロプロのファンで、2015年に発表された星部さん作詞作曲の、Juice=Juice『CHOICE & CHANCE』に大変感銘を受けました。また、昨年、レコード大賞最優秀新人賞を受賞したハロプロの新グループ・BEYOOOOONDSのデビュー曲『眼鏡の男の子』に衝撃を受け、星部ショウさんはまさに天才、いったいどんな方なのだろうかとずっと思っておりました。
また、星部さんは、稀にメディアに出ることがあってもお顔を隠されていて、その“正体”はまさに謎に包まれていたわけですが、今回、アップフロントグループのご協力で、取材を受けてくださることになりました。お写真はサングラスをされていますが、大変つぶらな瞳で、お話は気さくでわかりやすく、仕事熱心で、人間性がとても素晴らしい方でした。
■以下、星部さんインタビュー■
五戸「『眼鏡の男の子』の「お願いだから取ったってぇな 素顔が見たい」という歌詞、「取ってほしいな」ではなく「取ったってぇな」のほうが断然合うと思いました。どうやってこの言葉になったのでしょうか?」
星部氏(以下、敬称略)「先に詞を書くことがあまりなく、この曲もメロディが先にあり、そこに詞を乗せる方法をとっています。タッタッタ~タと、跳ねる音なので、小さいツを入れた言葉にしようと思いました。“五音音階”(日本の民謡や演歌にみられる音階)のメロディで、懐かしくも聞こえるので、自然と古い言葉を選ぶようになり「取ったってぇな」となりました」
五戸「文章で影響を受けているものは?」
星部「元々は作曲家志望だったので、作詞もできたらいいなぁ、くらいでした。でも歌詞は重要だと思っていて、語呂の良さや、ア行エ行だと明るく聞こえるといった、響きや語感に、良いなぁと思うほうでした。サザンオールスターズ・桑田佳祐さんの歌詞は特に好きで、日本語の歌詞だけれども、語感は英語だなと思いながら弾き語りをしていました。言葉の意味ももちろん重要ですが、意味を超越した歌詞だなと。今思えば影響を受けていると思います」
五戸「語感は英語、というのは、作詞をされたアンジュルムの『I 無双 Strong!』でも感じます。表記の、平仮名・カタカナ・漢字、についてこだわりはありますか?」
星部「こぶしファクトリーは、力強さを表現するために、あえて漢字を多くしている曲があります。他では、ライトな印象にしたい時はカタカナにする時もあります。スガシカオさんの『夜空ノムコウ』のような。視覚でも聴覚でも楽しめるように、と思っています」
五戸「作詞作曲、両方されている曲でいうと、アンジュルムの『赤いイヤホン』は名曲だと感じました。ワイヤレスで1曲、というのがあったのでしょうか?」
星部「イヤホンはいずれ歌詞に使いたいとずっと思っていました。『赤いイヤホン』は、打ち込みで、メロと詞をほぼ同時で作っています。アンジュルムの芯が強いイメージを、音のイメージに乗せながら、“ワイヤレスイヤホン”から連想して、“糸はないけれど繋がっている”という状態から、“人間関係”・“恋”・“女性が感じる制限”といった具合に、広がっていきました」
五戸「その想像力はどこから?読書習慣ですか?」
星部「すごく読書をしていたわけではないんです。“イヤホン”や“Bluetooth”といった使いたい言葉が、“点”となって、それらを結んで“線”にするイメージです。テレビでいうと『カンブリア宮殿』や『ガイアの夜明け』などビジネス番組は好きで見ています。働いている人ってすごいなと思っていて、それぞれの得意分野へのリスペクトがありますね。でもそれも、音楽がないと、点が線にならないなと感じています」
五戸「子供の頃の音楽習慣はどうでしょうか?ライナーノーツには洋楽のお話がよく出てきますが」
星部「小学6年の時に、初めてギターに出会って、毎日好きな曲を弾いていました。中学生の時に、友人におすすめの洋楽を教えてもらい、ボーイズ・II・メンなどすごく新鮮に感じて、よく聞いていましたね。J-POPも聞いていました。ランキング番組が大好きで、CDを買って聞いて、ランキングの上位に入るか予想をしたりして。兄も音楽が好きだったので、L’Arc~en~CielのCDは兄と分担して購入していました。当時から作曲がしたいとは思っていましたね」
五戸「その後どのようにして作曲家になられるのでしょうか?」
星部「高校は合唱部に入り、歌うことを学んで、独学でピアノも勉強しました。音楽学校では打ち込みや理論を習いました。とにかく音楽が好きだったんですよね」
五戸「歌い手になりたいとは思われなかったのでしょうか?」
星部「作曲家になりたいというのはブレなかったですね。今でも前に出たいとはあまり思わないので…」
五戸「それでお顔を隠されているんですね。星部さん作曲で、編曲は他の方、という楽曲も多いと思うのですが、それに抵抗はないでしょうか?」
星部「自分は一人で抱えないタイプですね。0から1を生み出す、その柱は太くすることを大事にしていますが、できたらとりあえず出して、委ねます。大久保薫さんや平田祥一郎さんや鈴木俊介さんといった天才がチームにたくさんいるので。『CHOICE & CHANCE』は最初とかなり変わりました」
五戸「良い作品を作りたいという気持ちを強く感じますね。今後チャレンジしてみたいことはありますか?」
星部「今の、音楽でご飯を食べていける現状がありがたくて、これを続けられるようにがんばらないと、と思っています。編曲のお声がかかるくらいできるようにならないと、とも思いますし。まだまだやることはいっぱいありますね」
■以上、インタビューでした■
語彙力を増やす=本を読む、という定説はありますが、もちろん読書は大事ですし私も好きですが、星部さんの場合は周りのもの全てが語彙の材料になっているような気がしました。それらの“点”が、音楽によって“線”になっていく…星部さんの素晴らしい楽曲の制作秘話が少し紐解けたような気がしました。(ちなみに、読書はそんなに、と言いつつ、村上春樹さんの作品はよく読んでいらっしゃるようでした)
音楽という芸術作品を次々と生み出す、星部さんのような天才は、どのようにして生まれたのだろう、というのが私の最大の関心事だったのですが、星部さんの場合は、早くから「作曲家になりたい」と思われたからこそ、思春期に多くの音楽体験と勉強をされていて、それが全て今に繋がっている、ということと、周りの全てが材料になるからこそ、ストックが常にあり、また、「一人で抱え込まない」という思い切りの良さが、今の才能を生かす形になられたのではないかと感じました。
本当に仕事が好きで、音楽が好きで、ハロプロに対する関心も強く、それでいて謙虚で素直でストイック。この方が作詞作曲陣に加わってくれたことの大きさをますます感じました。きっと星部さんの楽曲が、若い世代に影響を与え、今後、星部さんに憧れて作詞家・作曲家になるような、第二の星部さんが現れるのではないかという気がしています。
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