私が監督する映画「追想ジャーニー リエナクト」がいよいよ今月18日に公開する。2年前に上映した「追想ジャーニー」の第2弾になり、前回は48歳の男が、今回は60歳の男が30年前を追想する。キャスト陣を新たに、新たな追想の旅がはじまるー。
元々コロナ禍の中、キャスト・スタッフの人数をかけずにさらにシチュエ-ションを絞ってと企画した前作。高崎映画祭の邦画ベストセレクションに選ばれるなど、一定の評価を得たこともあり第2弾として本作を企画した。小規模な作品ながら、今回は大手配給会社が付き最初から全国26館でのスタート。話題の映画「侍タイムスリッパ-」に追いつけ追い越せと頑張りたいところである。
さてそこで今回紹介したい俳優は、本作に出演している樋口幸平(23)。戦隊ヒーロー(「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」)の後、BLドラマ「体感予報」がヒット。国宝級イケメンにも選ばれ、ドラマやイベントに引っ張りだこの人気俳優の1人である。撮影前に1度面談させてもらったが、プロを目指してサッカーをしていたこともあり、若いのに芯がしっかりしていると感じた。そして、今はとにかく芝居がしたい思いがビシビシと伝わってきて、ぜひ一緒に作品作りをとの思いでオファーした。
役は松田凌演じる脚本家・横田を尊敬している劇団員・峯井。小劇場あたりでよくある主宰者と看板俳優の関係。どちらかが売れれば世に出れると信じ、お互いの才能を認め合って切磋琢磨(せっさたくま)する2人。これまでのタイプとは違う役柄だったと思うが、とても大事に丁寧に演じてくれた。そこで事前に行った完成披露上映会で話題になったとあるシーンの出来事。樋口くんが「気付いたらあっという間に終わっていた」と話し、それに対して横田の30年後を演じた渡辺いっけいさんが「それってゾーン状態だよ」と答えていた。
芝居においてのゾーン状態、演じている役と本人が一体化する瞬間だと定義する。役作りをとことん追求する中でたまに起こる現象。実際現場でも不思議な空間になっていて、それをモニター越しで見ていたがとても言葉を発する状況ではなかった。全体的にテキパキとした現場であったが、そのシーンだけは異質な空間であった。今思えば、こちらもとても貴重な体験をさせてもらったと感じる。
改めて樋口幸平、今後すごい俳優になると断言する。そして話題になるであろうとあるシーンのゾーン状態をぜひ劇場の大きなスクリーンで体験していただきたい。
◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて南青山でカレー&バーも経営している。最近では映画「その恋、自販機で買えますか?」「映画 政見放送」、10月18日には映画「追想ジャーニー リエナクト」が公開予定。
(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)