フジテレビ宮内正喜社長が、長く低迷が続いた視聴率について底打ち宣言した。
3月29日に行った定例会見で、今年1月クールの平均視聴率を発表。ゴールデン(午後7時~同10時)は昨年比1・2ポイント増の8・7%、プライム(午後7時~同11時)は1・0ポイント増の8・4%、全日(午前6時~深夜0時)は0・2ポイント増の5・9%で、全カテゴリーで上昇した。
民放4位の立場で「さすがに底打ち宣言は早すぎる」という声も社内では聞かれるが、大低迷時の17年夏に社長に就任し「非常事態宣言」をした宮内社長からすれば、ゴールデン1%以上の前年比アップは吉報だ。「確実に復調し始めた。社内のムードも明るい」と、本人の表情も明るい。ついでに言えば、1月期の月9ドラマ「トレース~科捜研の男~」(主演錦戸亮)の全話平均視聴率も10・7%で、3クール連続2ケタ超え。「月9復活を印象付けられた」と声も弾む。
社長は元気だが、現場はどうなのか。ちょうど社長会見が終わった夕刻に、制作現場の生きのいい人たちが集まる社内コンペ「企画プレゼン大会」が行われていたので見てきた。半年前の大会より参加人数も熱気も目に見えて増していて、「社内のムードも明るい」はあながちハッタリではない印象だった。
若手発掘でバラエティー復活につなげようと17年9月から半年に1度開催しているイベントで、今回で4回目。実績に関係なく応募でき、会場の社員投票で金銀銅メダルに選ばれると、放送が約束される。第1回大会は入社2年目の千葉悠矢ディレクターが先輩勢をぶっちぎって金メダルをさらい、プレゼンした「超逆境クイズバトル!! 99人の壁」は今や土曜7時のゴールデンに大出世した。応募数は前回の59本から171本と3倍増になり、投票しようと集まった社員も40人増の170人。いすが足りず、立ち見参加の社員で鈴なりとなった。
今回金メダルに輝いた角山僚祐ディレクターは、09年入社の33歳。ローカルタレントに着目した「ご当地列島!ローカルスクープ」の企画で放送権を獲得した。
バラエティー番組を手掛ける“13階”こと第二制作室の雰囲気について、角山さんは「確かに明るくなってきた」と話す。「少しずつ数字が上がってきて、会議でもよく話題になる。視聴率の機械を置く家が変わったんじゃないか、とか」と表情が明るい。「VS嵐」「スカッとジャパン」「ダウンタウンなう」など、じわじわと数字を上げている番組はいくつかあり「つぼみがほんの少し開き始めたという実感は、各番組ごとにあると思う」。
公開で投票し、トップ3は枠ゲット。公平で分かりやすい競争原理という同局の持ち味が復活しつつあり、現場の活気につながっているようだ。角山さんは「『企画書ひとつで人生が変わる』という大会のキャッチコピーを体現した千葉の存在はでかい。入社2年目で『99人の壁』の放送を実現し、今や土7の総合演出。そんなパターンがあるのかという成功例は、逆転されたバラエティー部員全員の刺激とモチベーションになった」。
プレゼン大会を立ち上げた制作センターの坪田譲治担当局長も、変化を感じている1人だ。「打席が増え、自分が企画したものが数字になったりならなかったりという反応が活気となって、結果が出始めてきた気がする」。
自身は「SMAP×SMAP」や「笑っていいとも」などのヒット番組を手掛け、2年前に11年ぶりに制作に戻ってきた。プレゼン大会について「『企画を出してもうんともすんともその後が分からない』という現場の不満が本当に多く、オープンな形で企画を審査する場があってもいいと思って立ち上げた」。BSフジ社長時代の宮内氏が、外から見たフジテレビについて「何かをお願いするにしてもなかなか返事が来ず、窓口として誰が判断するか分からない」と指摘していた問題点と重なる。
「裁判官の人情ことば」の企画で銀メダルを獲得した田村優介ディレクター(34)は「プレゼン大会の影響なのか、最近は企画が通るなぁという感覚がある」。角山さんも同様だ。「3、4年前は、企画を出しても、誰が通ったのかも、なぜダメだったのかも分からなかった。最近はかなり風通しが良くなったと感じます」。
情報番組とドラマが先に復調の兆しをみせ、あとはバラエティーの復活待ちとなっていたフジテレビ。まだまだ民放4位であり、本当に「底を打った」のかはこれからの話だが、現場の表情が、苦笑いからリアルな笑顔に変わってきたのは、見逃せない変化だと思う。
【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)