さよなら大相撲〈3〉寺尾海 「寺尾関の弟子」誇りを胸に

日本相撲協会に所属する力士数は約600人。引退後、親方や裏方として協会に残れる人は、ほんのわずかだ。

大多数は、第2の人生に向かって歩み始める。

連載「さよなら大相撲」では、引退した力士の相撲人生を振り返り、今後へエールを送る。

第3回は寺尾海(36=錣山)。その名の通り、今は亡き先代師匠、元関脇寺尾の錣山親方に育ててもらった。「寺尾の弟子」という誇りを胸に、故郷・広島へ戻る。

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◆寺尾海大士(てらおうみ・だいし)本名・吉田大輔。1987年(昭和62年)8月7日、広島県呉市生まれ。空手に取り組んでいたが瀬戸内高校から錣山部屋に入門。吉田山のしこ名で2006年初場所初土俵。2008年初場所から、寺尾海に改名。最高位は西三段目6枚目。186センチ、124キロ。

笑顔の断髪式

2024年6月2日。東京都江東区の錣山部屋。

寺尾海の断髪式が行われた。

おだやかな門出だった。

止めばさみを入れる錣山親方(元小結豊真将)と寺尾海(寺尾海提供)

止めばさみを入れる錣山親方(元小結豊真将)と寺尾海(寺尾海提供)

1枚の写真が、雰囲気を物語っている。師匠の錣山親方(元小結豊真将)が、止めばさみを入れる場面で笑顔を見せている。

寺尾海が、事情を明かす。

「いろんな人に言われました。ほかの人の断髪式はシリアスなのに、自分のはアットホームな感じだったと。先代(元関脇寺尾)が豊真将関のマゲを切る時は、深く切りすぎて後頭部の髪がない感じになったそうです。『オレはそんな失敗はしないから任せろ』って、小さい声で言っていました。『オレは被害者だから、大丈夫だ』って(笑い)。長めに切ってもらいました」

断髪式の準備をする寺尾海(左)と錣山親方(元小結豊真将)

断髪式の準備をする寺尾海(左)と錣山親方(元小結豊真将)

予定より多い約130人がはさみを入れて、寺尾海はマゲに別れを告げた。

若い衆の断髪式は、本場所の千秋楽パーティーで実施されることが多い。今回はあえて、夏場所千秋楽から1週間後に行った。

師匠が警備を担当しているため、千秋楽パーティーの冒頭に間に合わない事情もある。錣山親方は「千秋楽のついでではなくて、しっかり断髪式を部屋でできればいいなと、話し合って決めました」と説明する。

部屋の功労者に向けた丁寧な送別の場になった。

夏場所14日目、最後の相撲に臨む寺尾海(2024年5月25日撮影)

夏場所14日目、最後の相撲に臨む寺尾海(2024年5月25日撮影)

母と先生がけんかのように…

18年以上に及んだ力士人生。角界入りは、思わぬきっかけで決まった。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。2023年11月から、日刊スポーツ・プレミアムの3代目編集長。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。 X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで、大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。