- 阪神高山
鳴尾浜通信の話題を求めて阪神-ソフトバンク戦の取材に出向いた。いつも通り、阪神の1軍と2軍の現状を分析しながら車を運転して球場へ。到着してグラウンドをのぞいてみる。なぜか空気が重たい。理由はひと目で分かった。
メッセンジャーがいる。ガルシアがいる。マルテがいる。3人の外国人以外にも藤川、桑原、藤浪といった主力が鳴尾浜球場に集合している。ペナントレースは幕を開け、各チームとも開幕ダッシュをもくろんでいる最中だというのにこの有り様はいただけない。投手陣の柱、打線のポイントゲッターとして働いているべき選手がファームにいては、いい結果を期待するのは無理。確かにアクシデントはあった。それぞれ事情はあるだろうが、そこはプロである。ファンの期待に応えるべき義務を考えると現状は厳しい。
少しでも早い1軍復帰を果たし、チームの主力としての活躍を願いたいところだが、私がいちOBとしてそれ以上に気になる選手がファームで調整している。高山俊外野手(26)である。明大を出て今季で4年目を迎えている。開幕では1軍ベンチ入りはしたものの、目下タイガース・デン(鳴尾浜)で修行中だ。確かに見ていて心許ない面はあるが、本来ならクリーンアップの一角を担っていてもおかしくない素材のはずだが……。
エリートコースを歩いてきた。高校時代(日大三)は甲子園での優勝経験者。大学(明大)では、東京6大学リーグの最多安打記録を48年ぶりに更新した。そして、プロ入りすると球団の新人安打記録を塗り替え、セ・リーグの新人王に輝いた。高山が入団当時の2軍監督だった掛布雅之氏をして「いいバッティングをしている。放っておいても大丈夫でしょう」と言わせたほどの素材だが、ゲームでの動きを見ていると、どこか物足りないプレーが顔をのぞかせる。
今回もこんなことがあった。4月11日のオリックス戦。2点リードを許して迎えた9回裏の攻撃。1死一、二塁のチャンスに左中間へ同点となる二塁打を放ったまではよかったが、その直後だ。インプレー中でボールがバックネット前を転々とし、十分三進できるケースでありながら、二塁ベース場で手袋を外したり、汗を拭いている。要するにボールから目を離してしまっている。ゲーム中は絶対にあってはならないことだが、時々そういったプレーを目にする。守備での不安も合わせて、主力としてゲームに手続けるなら解消を求められるのは当然だろう。
現在の調子は「悪くないです。良い方だと思っています」は高山だが、同選手をアマ時代から見てきたスカウトの佐野仙好顧問は「今年はいいですね。下半身がしっかりしている」と言う。ファームへ降りてきてからの成績は17試合で59打数19安打。打率は3割2分2厘(4月26日現在)。コンスタントに3割をキープしている。平田勝男2軍監督は「なかなか声はかかりませんが、上げてほしい選手の1人ですね」だ。ここでも個人的な意見を言わせていただくと、高山を現状から一皮剥こうとするなら、気持ちの上で乗っていける1軍で起用して自信をつけさせるしかないように思える。
試合後には特打も。両膝のあたりにゴムひもをはめて「ステップが大きくならないように」(高山)注意してのバッティング練習だ。「僕としてはファームでもしっかり結果を残して、上から声がかかるのを待つしかありませんから。ハイッ、頑張ります」と力強く宣言した。
高山に要求したいのは「プロ意識」を持ち続けることだ。プロ野球の原点はファンである。お客さんを球場に呼ぶ。感動を与える。満足して帰路についてもらうのが選手の責務。そのためには、プロとしての実力を身につける必要あり。技術の進歩は人間としての成長なくしてあり得ない。努力だ。努力は成功するという結果より、努力していく過程を重視すること。行き詰まったらあと一歩前に出て、いろいろ工夫しての努力だね。継続は力なり。1日1日の、1球1球の、1打1打の、1試合1試合の積み重ねが成長につながる。昔からの言い伝えがある。「練習で泣いて、試合で笑え」。
チームが待ち望んでいるのは心技体の充実した高山である。可能性十分の素材。挑戦に限界はない。とことん野球に打ち込め。試練はつきものである。与えられた試練は自分に打ち勝つチャンスなのだ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)
- 打撃練習で汗を流す阪神高山