【スクール☆ウォーズのそれから】京都工学院が花園に帰ってくる!興奮と感動を再び

学校統合により伏見工から校名変更となった京都工学院が、9大会ぶり21度目の花園切符をつかんだ。全国高校ラグビー大会の京都府予選決勝(11月10日)で10-8で京都成章に勝利。「スクール☆ウォーズのそれから」として、伝説のチームの軌跡を描きます。(敬称略)

ラグビー

あの大敗から約半世紀
再びたどり着いた花園

〈プロローグ〉

歓喜に沸く客席の片隅に、その人はいた。

目は赤く、肩を震わせながら泣いていた。

時折、おえつを漏らすように、目頭を押さえる。

そして、天を仰いだ。

きっと、喜んでくれているだろう。

「あれが伏見工業の産声やった」

0-112で大敗し「悔しいです!」「勝たせてください!」と叫んだ主将は、もういない。

ドラマのモデルとして描かれた今は亡き小畑道弘を、そして初めて全国制覇した時の中心選手だった平尾誠二のことを、思うのだろうか―。

ここまで長い道のりだった。

あの大敗からもうすぐ50年が過ぎようとしている。

目の前では令和の子たちが、勝利の余韻に浸っていた。

孫のような、たくましき選手たちである。

昭和から平成、令和へ―。

伏見工業の伝説は受け継がれていた。

「平尾2世」と呼ばれる司令塔がいる。

その背中でチームを引っ張ってきた、頼れるキャプテンがいる。

身を投げ捨てて、タックルを繰り返した選手たち。

そしてメンバーに入ることができなかった部員は、仲間のために必死に声を出し続けていた。

長年のライバル京都成章との決勝戦。それは華麗なラグビーではなかった。

転んでは起き上がり、汗にまみれ、地べたをはいつくばってつかんだ勝利だった。

電光掲示板に刻まれたスコアは10-8。

手に汗握るというような簡単な表現では伝えきれない、魂が激しくぶつかり合った試合だった。

校名が変わっても変わらないものがある。

紅と黒の伝統のジャージーを纏(まと)った男たちの矜持(きょうじ)。

低迷期があっても、再び約束の場所へ戻ろうとする不屈の闘志。

昔から「伏見工」を知る人たちはみな泣いていた。

どうやら、このチームを応援する人たちは泣き虫が多いようだ。

なぜなのか。

それは、心を揺さぶる、そんなチームだから。

伝説のチームをよみがえらせた、令和の選手たちを描く。

京都工学院メンバー(決勝・京都成章戦)


背番選手名学年
1加藤瑠絃2
2川口士央3
3春名倖志郎2
4森田一毅3
5松見真一郎3
6田中琉翔1
7押谷吉都3
8志水颯真2
9片岡湊志2
10杉山祐太朗2
11石塚 行里3
12木村 航3
13林 宙2
14黒田耕史3
15広川陽翔3
16大下一彰3
17羽田匠之介3
18山田侑亮3
19広瀬陽太3
20岸田悠汰3
21村上颯斗3
22市田愛歩2
23岩本斗吾2
24海島泰雅3
25岡垣 尊2

本文残り75% (4348文字/5827文字)

編集委員

益子浩一Koichi Mashiko

Ibaraki

茨城県日立市生まれ。京都産業大から2000年大阪本社に入社。
3年間の整理部(内勤)生活を経て2003年にプロ野球阪神タイガース担当。記者1年目で星野阪神の18年ぶりリーグ制覇の現場に居合わせた。
2004年からサッカーとラグビーを担当。サッカーの日本代表担当として本田圭佑、香川真司、大久保嘉人らを長く追いかけ、W杯は2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、ラグビーW杯はカーワンジャパンの2011年ニュージーランド大会を現地で取材。2017年からゴルフ担当で渋野日向子、河本結と力(りき)の姉弟はアマチュアの頃から取材した。2019年末から報道部デスク。
大久保嘉人氏の自伝「情熱を貫く」(朝日新聞出版)を編集協力、著書に「伏見工業伝説」(文芸春秋)がある。