つらい出来事が立て続けに起きてしまった。角居勝彦元調教師(60)が競馬を語る月イチ連載「Thanks Horse」。先週21日に能登半島が豪雨に襲われ、輪島市の布教所兼自宅は土砂崩れの影響で立ち入り禁止となった。翌22日には珠洲ホースパークへ来たばかりの引退馬バーデンヴァイラーが急死。悲痛な状況に直面した思いをつづった。

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先週の土曜日に能登で大雨が降りました。私は輪島にある天理教の布教所兼自宅で午前3時半から起きていたのですが、4時半すぎにスマホの警報が鳴りました。その頃はまだ道路も問題なく、7時から珠洲へ向かいました。ホースパークへ着くと、金沢からのお客さんが5、6人いらっしゃって、ふれあいも兼ねてぬれた馬たちの体を拭いてもらったりしていました。

そのうちにどんどん雨が降ってきて、近くの川が氾濫して道路が通行止めになりました。私も金沢へ行く用事があったのですが、お客さんも帰れなくなってしまい、一緒に通れる道を探して、ようやく午後3時過ぎに少し水が引いて移動することができました。

輪島の布教所では、私が離れた後に裏山が土砂崩れを起こし、駐車場にあったトラックが建物へ押し寄せてきました。中には立ち入りできなくなって今は住めないので、しばらくはホースパークなどに寝泊まりすることになりそうです。その牧場の電気や水道は今のところ無事ですが、断水の可能性があるそうで節水を呼びかけられています。

地元の人たちにはかける言葉が見つからないです。災害が重なり、心が折れかかっています。地震から半年以上かけてようやくがれきの撤去が始まり「よし頑張ろう」という直後でしたから…。つらい状況です。

牧場ではさらに悲しいことがありました。大雨の翌日未明にバーデンヴァイラーが急性腸炎で亡くなってしまいました。こちらへは現役を引退してすぐの7月末に来たばかりでした。またがってみて悪さもしませんでしたし、むしろ手がかからないぐらいだったので、みんなに乗ってもらえる子になってくれるのではと思っていたのですが…。

はっきりした原因は分かりませんが、やはり暑い夏がこたえたのかもしれません。集団生活に慣れていなかったためか、群れへ入るのをちゅうちょするところはあったので、環境の変化や今回の大雨が影響したことも考えられます。

残念なことが続きましたが、それでも今できることをやっていくしかありません。たとえば仮設住宅においてなかなか住民同士の交流もできていない中で、馬を見に来るだけで癒やされることもあるでしょうし、声かけをしてお誘いすることも考えていました。厳しい状況ではありますが、馬を介して少しでもお役に立てればと思っています。