<天皇賞・秋>◇27日=東京◇G1◇芝2000メートル◇3歳上◇出走15頭
武豊騎手から“末脚勝負にかける”という思いがにじみ出ていました。1000メートル通過は59秒9。何度も乗ってきた東京芝2000メートル、天皇賞・秋です。ペースが遅いのは当然、わかっていたでしょう。それでも後方2番手からまったく動きません。ドウデュースの背中で手綱を抑えて、抑えて、じっと“その時”を待っていました。
4コーナーを回って、いよいよ直線。大外へ持ち出し、すぐ内のレーベンスティールに“くるなら来い”と言わんばかりに、一緒に追い出しました。一瞬にしてトップギア。レーベンを置き去りにした瞬間は、貫禄というか、個体としての絶対的な強さすら感じました。上がり最速32秒5。こういう競馬をすると強い。思えば、朝日杯FSもダービーも、昨年の有馬記念も差し切りでした。鞍上が一番、わかっていました。
2走前のドバイターフは内で進路を失って5着。今回の勝利騎手インタビューでは「うまくエスコートできないレースもあった」と話していました。私にも経験がありますが、ああいう負け方をすると悔しくて2、3日は眠れません。前走の宝塚記念も道悪で内の進路しか取れず、不完全燃焼の6着。勝てる馬なのに勝たせてやれなくて悔しい。その胸中は推して知るべし。今回は全能力を発揮させる、その覚悟が究極の末脚勝負に表れていました。
一方、リバティアイランドは好位を取り、直線の手応えも良く見えましたが、まったく伸びず13着に敗れました。国内での前走(昨秋ジャパンC)から+22キロ。とはいえ成長期ですし、調教では抜群に動いていましたので、太めということはないでしょう。何があったのか…。レースを見ただけでは正直わかりません。
2着タスティエーラには驚きました。ダービー馬ですし、力は認めていても、ダービー以降がだらしなかったですからね。東京が合うのは間違いないですし、遅いペースを見越して、いい位置を取った松山騎手が見事でした。3着ホウオウビスケッツはハナを切り、スローに落として一瞬、押し切るかというシーンを作りました。岩田望騎手の思い切った騎乗が光りました。(JRA元調教師)