1月期の冬ドラマが出そろった。刑事、探偵、弁護士ものにジャンルが偏る中、脚本詩森ろば×主演松坂桃李の映画「新聞記者」タッグによる学園ドラマ「御上先生」(TBS)が無双の世界観で異彩を放つ。
「勝手にドラマ評」第61弾。今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(主要枠のみ、シリーズものは除く)。
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◆「119エマージェンシーコール」(フジテレビ系、月曜9時)清野菜名/瀬戸康史
★★★☆☆
119番通報を受ける女性管制員の活躍。特殊聴力という魔法設定だと、消防のリアルや地道さが伝わりにくいような。「ひとつひとつ全力で向き合いたいんです」という志が現場を荒らす迷惑YouTuber化していて共感しづらく、正しすぎる人のスタンドプレーからワンランク上がってほしかった。現場を荒らされて怒る消防士の方が悪者に見えるのは心が痛い。1話は異臭も大火災も全部お掃除ロボットのやらかし、2話はヒロインのおせっかいで家庭がえらいことになった瀬戸康史先輩の再生。まちまちな各話のチューニングを、無愛想キャラで安定の瀬戸康史がしっかり支えていてさすが。
◆「秘密~THE TOP SECRET~」(フジテレビ系、月曜10時)板垣李光人/中島裕翔/門脇麦
★★★☆☆
死者の脳から取り出した記憶を映像化し、事件の真相を暴くMRI捜査。原作漫画は映画化もされ、異常犯罪のあらゆる惨劇、それを見る過酷さ、メンタル崩壊にともなう切ない友情を、地上派ドラマでどこまで描写できるのか気になるところ。正義感を秘めた美貌の室長、板垣李光人が原作とビンゴ。2次元寄りの存在感がSFのたたずまいと合う。バディとして2役を演じる中島裕翔が重要なので期待したい。被害者の飼い犬が見ていたこの世界の美しさと、「ただののぞき」の苦悩が交錯した1話のラストが早くも切なかった。重要人物の自決で大きな不穏が動き出したが、まだ1話なので様子見で3。
◆「アイシー~瞬間記憶捜査・柊班~」(フジテレビ系、火曜9時)波瑠/山本耕史
★★★☆☆
1度見た光景を忘れない瞬間記憶能力(カメラアイ)を持つ女性刑事の活躍。天才的記憶脳に設定を頼りすぎなドラマ界。波瑠も「ON異常犯罪捜査官 藤堂比奈子」でやったばかりの記憶が。「アンフェア」「ストロベリーナイト」に続く令和の女性主任像を期待したが、ストロベリーナイト、あるいはサーガを意識しすぎの感。振る舞い、トラウマ設定、ドスの利いた怒鳴り声など、何かお手本がありそうな肩の力を感じる。記憶発動シーンは、深呼吸する口元のアップ。セクシュアルなパーツ選びにモヤっとし、ターゲット層ではなさげなので離脱。丁寧な作りは間違いなく、ノリが合う人はぜひ。
◆「まどか26歳、研修医やってます!」(TBS系、火曜10時)芳根京子/鈴木伸之
★★☆☆☆
爆笑と学びにあふれている原作コミックの面白さを映像化してほしかったが、よちよち、もぐもぐ、ぴょんぴょんな少女漫画の方向性。「9時5時の定時で帰る今どきの研修医たち」をテーマにした令和な挑戦は買いたいが、「定時なので」と手術室を出て行くマインドを魅力化するのに苦戦しているのか、病院よりランチやデートなどリア充シーン多め。定時で学べる範囲に物語のフィールドが限られ、残業世代のモーレツな救命ぶりの方が絵ヂカラが出てしまっているのは若者の成長ドラマとしてしんどい。意識高すぎて女の成長をはばむ彼氏が、見たことないテイストでいちばんおもしろい。
◆「問題物件」(フジテレビ系、水曜10時)上川隆也/内田理央
★★★★★
借りると死ぬ部屋、呪いのマンション、ゴミ屋敷など、不動産ミステリーを謎の男、犬頭光大郎が破天荒に解決。聴覚嗅覚にすぐれた“犬の化身”らしき俺様キャラを上川隆也がフルスイング。初対面の人に「お前」「詳しく話せ」「レッツゴーだ」「遅い!」。一方的に命令しながらマッハで謎を解く作品性にゲラゲラ笑う。ポルターガイストの語源など不動産まめ知識もなるほど感があり、ドタバタポエムな相棒(内田理央)とのバディ感も2話以降安定してきた。天才犬のコラレくんは今期の助演賞。クセ強で好みが分かれそうだが、前期の「全領域異常解決室」に続き、この枠が自由に自己表現中。
◆「日本一の最低男※私の家族はニセモノだった」(フジテレビ系、木曜10時)香取慎吾/志尊淳
★★★★☆
古巣を見返すため政治家を目指す元報道マンが、亡き妹のファミリーとの共同生活で成長していく。選挙ねらいの打算を入り口に、「不登校」「多様性」「こども食堂」など、無縁だった社会テーマに出くわしていくフォーマットが分かりやすい。「逃げてたら成長できない」VS「成功がすべてでしょうか」。義理の弟、志尊淳が正反対の価値観で機能し、互いに価値観をアップデートしていくハイブリッドな突破力もいい。主人公がどんどん行動するので、商店街結婚式とかキャンプファイアとか、丁寧な外ロケも映像映えする。熱い男の社会派ホームドラマなので、タイトルで損している感。
◆「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS系、金曜10時)広瀬すず/松山ケンイチ
★★★★☆
元警察官の父を殺された娘が事件の真相を追うクライムサスペンス。「私が誰かに殺されたとして、以下の人物が逮捕されたら、それは冤罪(えんざい)です」。父が残した手紙にインパクトがあり、序盤から一気に世界観が走り出す。「前を向くかどうかは私が決めます」。押し負けしない陰キャの行動力に広瀬すずがよくはまり、弁護士松山ケンイチがシリアスすぎない空気感をキープしてくれる。週刊誌記者磯村勇斗、容疑者成田凌という配置もスパイシー。父親が捜査した22年前の一家惨殺事件と、現在の事件がどう交錯していくか。原作マンガはまだ連載中。
◆「相続探偵」(日本テレビ系、土曜9時)赤楚衛二/桜田ひより/矢本悠馬
★★★★☆
遺産相続専門の探偵さん。軽妙洒脱(しゃだつ)なキレ者キャラを赤楚衛二が生き生きと仕上げてきて、挑戦的な1話完結が楽しい。「ケイゾク」「SPEC」の西荻弓絵氏がマンガ原作と脚本を担当。凝りすぎないトリックでクラシカルな探偵ドラマに寄せ、B級っぽいのに妙な格調、という離れ業も赤楚衛二ならでは。医学生のレイコちゃん(桜田ひより)、おたくな元科捜研(矢本悠馬)とのトリオに若いチーム感がある。雰囲気抜群の探偵事務所セット、遊び心のあるカメラワーク、疾走感のあるジャジーなBGMなど、トータルプロデュースもうまい。弁護士から探偵に転じた過去の事情とは。シリーズ化希望。
◆アンサンブル(日本テレビ系、土曜10時)川口春奈/松村北斗/田中圭
★★☆☆☆
今カレと元カレの三角関係、イケてる職業、過去の失敗で恋に臆病というヒロイン3大設定を軸に、ボディータッチ、コスプレ、激甘せりふの少女漫画テンプレを全部乗せ。何かの入門編のようなテイストを上級者キャストたちがやっていることに戸惑う。踏切の音が恋愛トラウマ、毒親発動など、毎回あれこれ足され続けていて、「恋愛専門弁護士」の法廷劇がおまけの感。個人的には「正反対の価値観でバリバリ勝訴を勝ち取っていく最強バディの痛快劇」のテンプレでぐいぐい見たかった。
◆「御上先生」(TBS系、日曜9時)松坂桃李/吉岡里帆
★★★★★
名門私立高に赴任した文科省官僚が、生徒たちを導いて権力の闇に立ち向かう。生徒が書いた1本のゴシップ記事を発端に、社会の闇へとミステリーが広がっていく展開は「バタフライ・エフェクト」のテーマそのもの。賢い生徒たちのディスカッションは従来の学園ドラマとは一線を画し、報道写真への考察から反省と探究が動き出す若い推進力にわくわく。アンダーラインを引きまくりたいせりふの数々から、面倒な人をあしらう官僚構文まで、言葉の力が隅々に。「力は弱くても、戦い方次第で勝てる」。重いテーマをニヒルに引っ張る松坂桃李が「ただの上級国民予備軍」をどう真のエリートに導くか。「とある有名な学園ドラマシリーズ」の功罪に斬り込んだのも興味深い。
◆「ホットスポット」(日本テレビ系、日曜10時半)市川実日子/角田晃広
★★★★☆
職場の地味な中年男性(東京03角田晃広)が宇宙人だった。知ったところで大事件も起きない女子たちの日常ドラマ。体育館の天井に挟まったバレーボールをとる、スマホの液晶フィルムをうまく貼るなど、市川実日子ら女性陣が宇宙人の能力を便利使いし、かつてない小スペクタクルなSFドラマを実現。巻き込まれ型のおじさん宇宙人に東京03角田晃広がはまり、小さな奮闘が意外なところの世直しになっていたりする展開にほっこり。女性会話劇ですっかりブランド化されたバカリズムワールド。夏帆、木南晴夏、坂井真紀ら今回も座付き俳優多数で手堅い。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)