【エッセー】都心のビル風を縫って松井稼頭央さんと歩く―優しい声色が変わったその時

西武の前監督、松井稼頭央氏(49)が沈黙を破りました。

11月、都内で女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」のキックインに参加。「少しだけ野球の話、よろしいですか?」に応じてくれました。

成績不振で5月末、前半戦終了をもって休養に。複雑な胸中を紡いでくれました。

プロ野球

◆松井稼頭央(まつい・かずお)1975年(昭50)10月23日、大阪府東大阪市生まれ。PL学園では投手として甲子園に出場。93年ドラフト3位で西武入団。内野手に転向し、最多安打2度、盗塁王3度、98年MVP。02年トリプルスリー達成。03年オフにFAでメッツ移籍。06年途中にロッキーズへ移籍し、07年ワールドシリーズ出場。アストロズ時代の09年に日米通算2000安打を達成。11年に楽天入団。18年に西武復帰し、同年引退。2軍監督、1軍ヘッドコーチを経て23年から1軍監督。右投げ両打ち。

■「今年一番の寒さだよね」

味の素フィールドに到着した時、松井稼頭央さんはグラウンドを見学していた。ブラックスーツを着こなし、遠目ながらにかっこいい。少し大きく見える。

「周りの女子サッカー選手、小さいですからね」

WEリーグ関係者がそう笑う。

松井さん…そう呼んだことはないけれど、あえて「稼頭央さん」と書く。

稼頭央さんの休養が発表になった5月26日午後、私は本業のアマチュア野球取材を終え、帰宅中だった。たぶん5月中旬以来の再会だ。

「お~、おひさしぶりです」

元気そうで安心する。

休養以来、稼頭央さんはメディアに登場していない。金子侑司外野手の引退試合でベルーナドームに訪れていたが、報道陣と顔を合わせることはなかった。

あれから半年ほど。西武担当を離れているとはいえ、私が何をしに訪れたのかは察しているはずだ。

試合が終わり、サッカー担当記者もまじえての囲み取材が終わり、輪が崩れたところで呼びかける。

「少しだけ野球の話、よろしいですか?」

夜を歩いた。

■「早急に決めようとも思ってないし」

都心のビル風が冷たい。「今年一番の寒さだよね」と身を縮める。暑い夏、稼頭央さんは「休養」していた。

「何もしてないですよ。何も。シーズンある間は試合とかもずっと見たりしてましたし。それも終わったので、次に向けてどうしていくかということを考えていこうかな~みたいな。だから来年のことは何も決まってないし、早急に決めようとも思ってないし」

聞きたいことがあったけれど、まだ早い。1年少々の1軍監督。個人的に印象深い采配もあった。

就任1年目の開幕試合、リードする最終回にルーキーの青山美夏人投手をクローザー起用した。

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。